カルチャー
『この地獄を生きるのだ』著者・小林エリコさん×『貧困クライシス』著者・藤田孝典さん対談(後編)

「私は悪いことはしていない」——生活保護から抜け出した女性が訴えたいこと

2018/01/30 15:00
小林エリコさん

 ブラック企業での勤務によるうつ病、貧困、生活保護、そして生活保護から抜け出すまでの壮絶な体験を綴った『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)を上梓した小林エリコさん。前編では生活に困っている人の相談支援活動を行うNPO法人ほっとプラスの代表で、『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)や『貧困クライシス 国民総「最底辺」社会』(毎日新聞出版)の著書もある社会福祉士の藤田孝典さんと、精神障害者をめぐる状況や生活保護の実情について語ってもらった。後編では、現代の貧困問題や当事者の意識について踏み込む。

(前編はこちら)

■3割がケースワーカーの資格を持たないまま働いている

――小林さんの担当のケースワーカーさん(福祉事務所や児童相談所といった公的機関で働く人)はまったく親身になってくれない方と著書にありましたが、なぜケースワーカーによって違いがあるのでしょうか?

藤田孝典さん(以下、藤田) 「社会福祉主事」という資格がある人しか福祉事務所のケースワーカーになれないと、法律で決まっています。でも、実は、社会福祉主事の資格を持っているケースワーカーは全国平均で7割しかいないという調査結果もあり、3割は無資格のまま働いている。自治体の納税課・収税課、土木課から異動してきた人が担当している場合もあります。ケースワーク業務を誰でもできる仕事だと、いまだに思っている役所があるんです。「怠けているだけで、頑張れば仕事なんて見つかるでしょ」とか「頑張って外に出なさい」と、平気で言ってしまう人が配属されていて、要するに専門性が低い。それを今、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持っている人をなるべく配属させようと、厚生労働省や先駆的自治体などは推進しています。

 でも、役所としては、専門職を雇うと福祉の現場でしか回せなくなってしまうので、土木課や水道課に異動できない人を雇うわけにもいかない――という考えから進んでいません。1〜2年したら異動になるという、このお役所文化を、福祉分野だけでもそろそろ変えないといけないと思います。

小林エリコさん(以下、小林) 1つの仕事をずっとやっているほうが、専門性が身についていいはずですよね。

――役所では、ケースワーカーに関する研修は行われないんですか?

藤田 一応研修はやります。僕も福祉事務所向けの研修などで「ケースワーカーは、こうあるべきですよ」という話をしますが、いかんせん今は、公務員削減の一方で、生活保護受給者が増えてきているんです。都市部だと、1人のケースワーカーさんが120〜150世帯担当している場合もあります。厚労省は、標準世帯数といって、1人のケースワーカーさんの受け持ちは都市部では80世帯、郡部では65世帯までが適正な担当ケース数だと決めています。しかし、ほとんど守られていません。

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