セックスワーカーを経験した中村うさぎに聞く、売春はなぜ“いけない”ことなの?
一方、女性が売春をする女性に対して差別することも、世の中にはある。それはもちろん、男権的な価値観から生まれた“貞淑”という観念が世間一般に浸透した結果ともいえるが、それ以前の問題として、女性が売春をよしとしないのには「もっと感情的な理由がある」と中村さんは話す。
「売春が嫌われるのには、“女を売るのはズルい”という同性からの視点もあるのだと思います。キャバクラなんかでも枕営業するホステスは下に見られる傾向にあるようですが、要は性を使ってのし上がった同性に対して、イカサマをされたような理不尽な感情が湧くんですよね。それこそ、安い時給のアルバイトなんかでコツコツ稼いでいる女性が、売春で大金を稼いでいる人に対して“反則”だと感じることもあるでしょう」
ほかにも、一部のフェミニストたちによる売春反対の声もある。売春を男性による「性の搾取」と見なし、倫理的に到底認められないという意見だ。
「売春は女性性の搾取であり、男性優位社会の産物だという考え方ですね。ただ、親に遊郭に売られたり、暴力による売春の強制があった昔ならいざ知らず、現代では自分の意志で性を売る仕事を選び取っている人も多いわけです。そうした女性の立場はどうなるのか? 男権的な価値観に洗脳されて、無自覚に性を売っているのだと話すフェミニストもいます。しかし、仮にそれが刷り込みであったとしても、刷り込まれた価値観を、そのまま肯定するか否定するかは、その人の自由でしょう」
女性の売春や風俗ビジネス は、男性の性欲なしには成り立たないものであり、その性欲そのものを否定してしまえば、それはフェミニズムというより、もはやミサンドリー(男性嫌悪)ではないか、というのが中村さんの見方だ。
「結局のところ、風俗に対する過剰なバッシングを繰り返すフェミニストたちは、単に男性の性欲が嫌いなんだと思います。しかし、自らの意志でセックスワークを選んだ人たちまでも、『被害者』として一括りにすることは、彼女たちの自由意志を無視した差別といえるのではないでしょうか」