セックスワーカーを経験した中村うさぎに聞く、売春はなぜ“いけない”ことなの?
世界最古の職業といわれる「売春」。現代の日本では売春防止法によって禁止されている行為だが、法的な規制を抜きにしても、多くの日本人が「売春はいけないこと」という意識を持っているのではないだろうか。
2017年9月に『エッチなお仕事なぜいけないの?』(ポット出版プラス)を上梓した作家の中村うさぎさんは、恐らく世間一般では少数派であろう“売春賛成派”。同書には売春の是非について、中村さんと有識者たちによる対談が収められているが、実際のところ、売春がいけないといわれているのはなぜなのか? ご本人に聞いてみた。
■「不特定多数に性を売ること」への嫌悪感
まず、売春が悪だという認識が浸透している背景には、「不特定多数に性を売る」という行為そのものが、嫌悪の対象になりやすいからだと中村さんは指摘する。
「そもそも、なぜ不特定多数に性を売ることが悪とされるのか? ひとつは、男性が生み出した“貞淑”という幻想によるものだと思います。それは、自分の子孫を確実に残したいという、男性たちによる本能レベルの欲求ではないでしょうか? なにしろ、女性のほうは、父親が誰であろうと自分が産んだ子どもは100%の自分の子であるという確信がありますが、男性は、女性の腹から出てくる赤子が自分の種じゃない可能性もあるわけです。そんな危機感が働いたからこそ、夫以外の男性と寝る女性を嫌悪し、“不貞”というレッテル貼りをしたのではないでしょうか」
歴史を振り返ってみると、後家が権力を握っていた室町時代をはじめ、政治でも女性の影響力がある程度強かった14世紀ごろまでは、セックスを売り物にする女性も差別の対象にはならなかったという。
「たとえば平安時代から鎌倉時代にかけて『白拍子』と呼ばれる女性たちがいましたが、彼女らは歌舞を演じるだけでなく、男性の夜の相手もしていたことがわかっています。容姿端麗で芸に優れた白拍子は男性の憧れの的で、彼女たちをめとることは男性にとってもステータスでした。一方、武家時代に入って男性優位の社会になってくると、遊女などの地位が途端に低くなるのです」
つまり、男性が権力を握り、彼らにとって都合のよい倫理観が出来上がった結果、性を売ることへの嫌悪感が浸透していったとも考えられるのだ。そうした中で、性を売る人はいやしいという差別感情が生まれ、「遊女という職業はけしからん」という暗黙の了解が出来上がって、売春への忌避感が生まれたのだという。