オンナを描く漫画家・鳥飼茜に聞いた、女社会の“本質”と母親という女について
漫画家・鳥飼茜が止まらない。10月には最高傑作との呼び声も高い『先生の白い嘘』(講談社)の完結巻となる8巻、新作『ロマンス暴風域』(扶桑社)1巻、『地獄のガールフレンド』(祥伝社)のスピンオフ本『鳥飼茜の地獄でガールズトーク』(祥伝社)と、一挙に3冊をリリース。さらには「クイック・ジャパン」vol.134(太田出版)で大々的に特集されるなど、まさに大車輪の活躍だ。さまざまな角度から女を描き、そして女をエンパワメントしてきた鳥飼茜の、作家としての現在地を女子マンガ研究家・小田真琴が2回にわたって聞く。まずは前編、テーマは「嘘と女」について。
鳥飼茜(とりかい・あかね)
大阪府出身。2004年、「別冊少女フレンド DX ジュリエット」(講談社)でデビュー。2010年に「モーニング・ツー」(講談社)で連載を開始した『おはようおかえり』(講談社)が評判となって一躍人気作家となる。代表作に『先生の白い嘘』(講談社)、『地獄のガールフレンド』(祥伝社)など。女性の心の機微を描き出す力はマンガ界でも随一。現在は「SPA!」(扶桑社)、「ダ・ヴィンチ」(KADOKAWA)、「Maybe!」(小学館)でマンガ作品を連載中。
――新作『ロマンス暴風域』は男性週刊誌「SPA!」での連載ということもあって、これまでとはまた違った毛色の作品です。ページの余白が黒く塗り潰されていて驚きでした。
鳥飼茜氏(以下、鳥飼) 初めてコピック(高品質のカラーマーカー。マンガのカラーページを描くのによく用いられる)でマンガを描いたんですけど、グレーの階調が多いんで、見た目が散らからないかなって不安があったんです。背景を締めればなんとかなるんじゃないかと考えて。あとは映画見てるみたいな感じになってくれたらいいな、って思ったんですね。なんか、夢みたいな話なんで。
――本のサイズも珍しく大きめのA5判ですね。
鳥飼 階調が多い絵なんで、大きい方がいいと思います。小さくすると鬱陶しいかもね。でも、私の経験上絶版になるというマイジンクスがありまして……やばいね(笑)。大丈夫ですか(笑)?
『ロマンス暴風域』は男の一人称で描く現代の「男のロマンス」だ。風俗店で出会ったせりかに運命の出会いを感じた高校の臨時教員サトミン。ところが次第にせりかは平気で嘘がつける人間だとわかっていく。なにが嘘で、なにが真実なのか。それでもサトミンの心に吹き荒れるロマンスの暴風はやむことがない。
――「夢みたいな話」とのことですが、『ロマンス暴風域』のせりかがつく嘘は、もはや幻想的ですらあります。
鳥飼 せりかは超嘘つきですけど、私自身からはかけ離れているから、ドラマチックだなあと思って、おもしろく思ったんです。絶対に自分がしないことだから。嘘をつく人のメカニズムが全然わからないんですよね。
――嘘かほんとかみたいなことに、あまり興味がない?
鳥飼 そうかもしれませんね。嘘でもいいんで。せりかは嘘をつくけど、どれも本当じゃなかったとしても、その瞬間、それを信用して、自分が気持ちよかったらそれでいいんじゃないかって。それが現実と違うからといって、じゃあ意味がないのかっていうと、そうとは限らなくて、その意味をいいものとして持ち替えるかどうかであって、それは対面した本人にしかわからないというか。
――マンガもある種の嘘です。
鳥飼 私のマンガはよく説教臭いと言われるんですが(笑)、その説教も嘘ですからね。なんにもないところから適当に説教を始めてるんです。真っ白な紙の上に説教を描いてるわけだから、見て来たようなことを。真実味があればいい、本気でつける嘘しかつかない、的な。かっこよく言うとね。
――鳥飼作品は嘘から立ち上がる物語が多いですよね。『おんなのいえ』の川谷の嘘とか、『先生の白い嘘』というタイトルとか……。
鳥飼 言われてみればそうですね(笑)。ずっと私の作品を読んでる人って、そういう謎の分析をしますよね! でも現実では、たぶん嘘つかれても気づかないくらい、嘘って意識したことないんですよ。前に飲み会の席で「鳥飼さんって浮気されたことないの?」って話になって、「ないですね」って答えたら、「それは騙されているか、世の中に存在するという浮気をしない2%の男とだけ付き合ってきてるかどっちかだな!」って言われたことがあります。
昨年全8巻で完結した『おんなのいえ』は、有香とすみ香、2人姉妹の恋模様を描いた女子マンガの傑作。あこがれの職業を諦め、結婚するつもりだった彼氏にもふられた有香は、バイト先のキャバクラで出会った川谷といい感じになるのだが、実は川谷は既婚者で……というのが1巻のあらすじ。
――信頼のようなもの、特に女性の共同体に対する無条件の信頼が、鳥飼作品のベースにはあるように感じます。『おんなのいえ』はまさにそうですし、現在「ダ・ヴィンチ」で連載中の『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』もそうですね。
鳥飼 親戚も家族も女ばっかりだから、それしか知らないんですよね。結婚生活とか同棲中とかは確かに男がいましたけど、その男って単体だからあまり参考にはなりません。単体の男ってとにかく甘え倒すっていうことしか、私は知らないから(笑)。
――その中で女という性に対する信頼感が生まれていった?
鳥飼 女の人だけの共同体が好きなわけじゃないんです。どちらかと言うと苦手ですね。女友達もあまりいないし、飲みにも行かない。でも信頼はしてるんです。