カルチャー
ライター・杉山春氏×精神科医・松本俊彦氏対談(前編)

身近な者の自死に「怒り」を抱くときーー遺族の心情をどう受け止めるか【杉山春×松本俊彦対談】

2017/10/13 15:00

精神科医の松本俊彦氏

――遺族が怒りの感情を持ってしまうことを防ぐ方法はあるのでしょうか?

松本俊彦氏(以下、松本) それは難しいですよね。怒りは例えば、自殺した人の治療を直前まで担当していた精神科主治医や、お子さんの場合には通っていた学校に向けられることもある。でもその一方で、医師や学校といった外部に怒りを向けることをせず、自らの内側に罪悪感を抱え、自分を責めさいなむ親御さんもいます。自殺に限らず、例えばがんの宣告を受けるようなショッキングな事実を受け入れるときって、心の中でいろんな動きがありますよね。それと同じように、自死遺族もプロセスを踏んで、ようやく等身大の「悲しみ」と向き合うことができるのではないかと思います。そこをもっと周りの方は知る必要があると思います。

 もっとも、外部への怒りを訴訟という形で表現するにしても、それはそれでストレスもお金もかかります。僕自身も訴訟のための意見書を書いたことがありますが、その裁判はなんとも凄惨でした。「学校じゃなくて、ご家庭に問題があったのではないでしょうか?」と言ってくる学校側に対し、遺族側は「教員なら、○○をする必要があった!」というふうに反撃する。お互い傷ついている者同士なのに、なぜこんなにやり合ってしまうのかと……。

杉山 私は、「心理学的剖検」というものがもう少し社会に認知され、成熟していくと、もう少し和らぐのではないかなという気がしています。心理学的剖検とは、自死遺族の方から、故人がどのような段階を追って自死に至ったのかを詳細に聞き取る、という作業を、たくさんの事例で積み重ね、自死の特徴やパターンを分析していく手法です。そうやって自死に関する知識を蓄積していくことによって、「どちらが悪い」と判断するのではなく、その人がどう苦しんでいたかを明らかにして、自死を防いでいこうとする意思を社会全体として持ちやすくなるのではないかと思います。でも、これはきれいごとでしょうか?

松本 いや、きれいごとではなく、その可能性はあると思います。ただ、その際、情報源が遺族だけだと、遺族に寄り添うことはできるけど、情報の中立性、客観的に偏りが出ることもあります。極端な例を挙げれば、遺族が虐待していた事実があった場合、そうした情報は収集できない可能性が高いと思います。また、他人から分析されるということへの抵抗感を持つ方もいるはずです。僕らも、心理学的剖検を始めた当初は、ご遺族の方から「自分たちの心理を専門家に分析されているようで嫌だ」というご意見もいただきました。やはり分析って、冷たく感じるものですよね。上から目線だと思われてしまうことだってある。だから、そうならないためにはどうしたらいいのか、考えなければなりません。

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