身近な者の自死に「怒り」を抱くときーー遺族の心情をどう受け止めるか【杉山春×松本俊彦対談】
2014年に自殺した上原多香子の元夫、ET−KINGのTENNさん。当時、上原には多くの人から同情の言葉が寄せられた。しかし、今年8月にTENNさんの遺族が遺書を公開し、自殺の原因は上原の不倫と読み取れる内容が明らかになると、一転して上原への批判が飛び交う事態になった。なぜ、遺族は遺書を公開したのだろうか? 今回は、『自死は、向き合える 遺族を支える、社会で防ぐ』(岩波ブックレット970)を上梓したライターの杉山春氏と、自殺や依存症などに詳しい精神科医の松本俊彦氏に、自死遺族や自死をする人の思いに迫る。
■自死遺族は、プロセスを踏んで、ようやく事実と向き合える
――TENNさんの遺書が週刊誌に掲載されました。遺書を公開することによって、遺族の傷が癒えるとは思えないのですが、これはどういった心境から公開したのだと思われますか?
杉山春氏(以下、杉山) 上原さんの件をそこまで深く調べたわけではないので、詳しいことは言えませんが、おっしゃる通り、遺書を公開することで遺族の傷が癒えることはないでしょう。これは、「怒り」を表したのだと思います。でも、そういう形で表された怒りは、暴力と同じで、適切に止めないとエスカレートしていきます。私は息子さんを自死で亡くされたご遺族を取材しましたが、その方は息子さんを亡くされた後のある時期、「息子の嫁を殺したい」という殺意があったとおっしゃっていました。
遺族の方たちを取材して知ったことは、身近な者の自死を体験したとき、残された者は、社会的に許される感情も、許されない感情も、本当にあらゆる感情を抱え込むということです。怒りの向こうに、深い悲しみや自責感を伴っています。それらを周囲が適切に受け止めないと、さらに怒りは暴走していくと思います。