アスペルガーの夫や彼氏から「逃げてもいい」! “妻だから支える”呪いに耳を貸すな
近年、俳優やモデルとして活躍する栗原類や、映画化もされベストセラーになった『いま、会いにゆきます』の作者・市川拓司などが「自身は発達障害である」とカミングアウトしたことにより、世間に「大人の発達障害」というワードが広まるようになった。子どもの時には周りも自分も気が付かず、大人になってから社会の中で生きにくさを感じて、自分は発達障害かもしれないと疑う人が増加している。そして、その疑いは自分だけではなく、身近な人にも向く。例えば、夫や、彼氏との生活で感じる違和感。「彼はもしかしたら発達障害なのではないだろか?」という疑惑を抱えてモヤモヤとする日々。もしそうだったら、私はどうしたらいいんだろう……と、悩みを抱えている人もいるだろう。
結婚16年目にして夫のアキラさんがアスペルガー(発達障害の一種)だったことがわかった野波ツナさんは、その結婚生活をコミックエッセイ『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』(コスミック出版)シリーズで赤裸々に描いている。8作目となる『アスペルガーと知らないで結婚したらとんでもないことになりました』を刊行した野波さんに、彼に覚えていた違和感や、発達障害のパートナーとの付き合い方などをうかがった。
――今作では、野波さんとアキラさんの結婚前の姿が描かれています。どうしてこの時期を書かれたのですか。
野波ツナさん(以下、野波) 最初の本『旦那さんはアスペルガー』は、夫がアスペルガーだとわかった時で、1冊すべて、夫のダメな部分ばかりを描いていました。でも、結婚した当初は、この人と結婚したいという思いがあったんです。個性的で性格も悪くない、仕事もしっかりしていました。では、どんな時に彼に対する違和感が出てきたかなと振り返ると、あれもこれも、いま思い返すといろいろとあったなと。初めは小さかったその違和感が時間や、結婚、子育てなど段階を踏んで行く中で増えていったことを、みなさんに知ってほしいと思って描きました。
彼は結婚当初は仕事もちゃんとしていたし、個性的ではあったけどおかしな人ではなかった。そのため、家庭がうまくいかないのは、私のせいなのかなと悩んだりもしました。しかし、結果として、アスペルガーの彼にとって結婚、同居というのは大変な負担で、借金や退職などといった大きな失敗を起こすきっかけになっていたとわかりました。
――当時の野波さんの困惑やストレスは相当なものだったんでしょうね。
野波 本のタイトル通り、結婚して大変なことになったのは、妻である私もそうですが、夫である彼も大変だったんです。彼も当時は自分がアスペルガーだというのを知らなかったので、普通の人のように家庭を築いていけると思っていた。でも、アスペルガーの特性ゆえ、努力では変えられないものがあり、結婚、家族という共同生活に非常なストレスを感じていたんだと思います。
――当時の旦那さんはまさに、野波さんが作られた言葉「サイレント・アスペルガー」だったんですね。
野波 そうですね。「サイレント・アスペルガー」とは、自身では発達障害の自覚がなく、社会生活に“困り感”を抱くことなく生きてきた人のことを、そう呼んでいます。アスペルガーの人は知性の高い方が多いので、今まで失敗してきたことを学び、周りの参考にできる人から言動をトレースして外側をよそおえます。なので、家の外では人当たりもよく、社会生活も一見普通に送れます。アキラさん自身、人とはちょっと違うだけ、むしろ特別な人間と思っていたそうです。私がパソコンでアスペルガーの特性を見せながら、「あなたこれかもよ」と言ったとき、「あ~ワタシこれです」とすんなり受け止め、「アスペルガー」という響きも特殊な感じがしてカッコいいとすら思ったそう。だからと言って、自分を変えようというふうにならないのがサイレント・アスペルガーの特徴かもしれません。