カルチャー
「職業:愛人」の女たち 第2回

愛人手当ては「家電」に物品、居酒屋の常連客と“コスパの良い”愛人関係に【「職業:愛人」の女たち】

2017/09/24 19:00
コスパ愛人のサクラさん

 バブル時代、愛人といえば“パパ”から買ってもらった高級マンションに住み、メルセデス・ベンツやBMWなどの外車を乗り回し、シャネルスーツにエルメスのバッグという格好で六本木や銀座に出勤する……そんなイメージがあった。

 しかし、それも今は昔。長く続く経済の下り坂時代、90年代、00年代では“デフレスパイラル”“失われた20年”などという言葉が流行して、昨今は“貧困女子”が一躍注目。愛人業界にも、「コスパの良い」「プチプラ」女性たちが現れている。
 
 話を聞いたのは、サクラちゃん(仮名・26歳)。ナチュラルメイクというよりはすっぴんに近い顔に、デニムとTシャツといったカジュアルファッション。まさか愛人がいるような女性には見えない。
 現在、付き合って5年になる“パパ”がいる。相手は43歳の“フツーのサラリーマンの男性”。話をよく聞いてみれば納得。「それも愛人って言うんだ!」と驚愕するような交際をしているのである。
 

 出会いはバイト先の居酒屋……店員と常連客

 2人の出会いは、当時21歳だったサクラちゃんがバイトしていた居酒屋だという。居酒屋でパパと出会えるものなのか? 出会ったとして、どうして愛人という形の交際になったのか?
 
「最初は常連さんだったんですよ。週に2~3回は私がバイトしてた店に来て、1人でご飯を食べて、軽く飲んで帰っていく……みたいな。常連さんでみんな名前も知っていたので、『田中さん(仮名)いらっしゃい! まずはいつも通りビールでいい?』みたいな感じで、店が暇な時にはバイトが代わる代わる田中さんのおしゃべりの相手をするような間柄でしたね。さっと食べて飲んで、ダラダラ長居することもなく、バイトスタッフに絡んだりすることもなかったので、本当にいいお客さんでしたね。だから、店の飲み会なども誘われるくらいだったんですよ」
 
ーーもはや店員扱いくらいだ。
 
「そうそう。で、店の飲み会があった時に、田中さんと結構ガッツリと話す機会があったんですよね。『普段は何やってんの?』『専門学校生ですよ』みたいなかんじで。私、高校出てすぐに一度就職しているんですよ。でも、やりたいことがあったので、お金を貯めて上京して、専門学校に入ったんです。貯金で足りなかった学費は親に借りて、生活費は全部自分で出していました。居酒屋のバイト代は月10万ちょっとだったので、本当生活がキツくて……。まあ、だから、賄いがしっかりついてる居酒屋を選んだってのもありますね。そんなことを話していたんです」
 
ーーそこまではよくある話だよね。
 
「うん、そうなんですよね。『若いのにエライね』『いやいやそんなことないですよ。自分の好きなことやりたいって出てきたので、多少の苦労は仕方ないって思ってます』みたいな話をしていた中で、『ただ、冷蔵庫がないのがきついんですよね』ってポロッとこぼしたんです。私、ちょっと衛生的にコインランドリーってイヤなんですね。だから、最初に洗濯機を買っちゃったんですよ。だから、その当時、家電が洗濯機しかなかったんです」
 
ーー珍しいね。
 
「でしょ。で、それを話したら、『え? 一人暮らし用の冷蔵庫なんて、2~3万程度でしょ。それくらいなら買ってあげるよ』って田中さんが言い出したんです。その時は、私もお酒が入っていたので、『えー! ウソー! 超うれしい! めっちゃ助かる~!』なんてノリで言っちゃって……」
 
 たいていの場合、飲み会での約束は御破算だろう。実現しなかったとしても、「ノリだしね」と気にも留めないものである。ところがなんと、翌日田中さんからサクラちゃんの携帯に連絡があったのだという。
 
「『どうする? いつ買いにいく?』って。え、本気だったんだ! って正直ビックリしましたよ。悪いからいいですよって断ったんだけど、大した額じゃないから気にしないでっていうので、その電話で電気屋さんに一緒にいく日程を決めちゃったんですよね」
 
 初めてのデートは電気屋。なんとも所帯じみた交際である。電気屋に行くと、田中さんは「どうせだったら電子レンジもあった方が便利じゃない?」と電子レンジも買ってくれた。大型家電のため、当然、後日配送となる。そのため、その日は食事をした後に、お互いの家にすぐに帰った。

 家電から家財、食費へ。不思議な愛人関係……

 男女の仲に発展したのは、家電が家に到着した日だという。
 
 「家に見にいってもいい? イヤだったら遠慮するけど」と言う田中さんに、サクラちゃんは「家電を買ってくれたんだから、ちょっとはお礼をしないと」と、手料理でもてなすことにしたと言う。
 
 家電が届いたその日、2人はサクラちゃんの家で食事をして、田中さんが買って来たお酒を一緒に飲んだ。一人暮らしの女性の家に、男女がいる。セクシーな展開になっても不思議はない。
 
「『そんなつもりじゃなかったんだけど、ボク、サクラちゃんみたいな子ってタイプなんだよ』みたいなことを言って、田中さんが突然キスして来たんです」
 
ーーえ、拒まなかったの? イヤじゃなかったの?
 
「うーん、イヤといえばイヤでしたね。でも、当時彼氏もいなかったし……っていうか今もいないんですけど(笑)。え、どうしよ、どうしよとか思っているうちに押し切られちゃうような感じで、最後までしちゃったんです」
 
ーー冷蔵庫と電子レンジを買ってもらっただけで?
 
「ですね」
 
 その後は、なんとなく交際が始まり、月に2〜3回、サクラちゃんのバイトの休みに合わせて、平日の夜、田中さんは家に来るようになった。家に遊びにくるときには、一緒にスーパーに行き、“生活の援助”という名目で、野菜や肉、飲み物などの食類や洗剤などの日用雑貨をどっさりと買い込んでくるのが恒例。これで、サクラちゃんの家計からは、“食費”“日用雑貨”という項目が削られた。

 そして、その後も、1~2ヶ月に一度は、家電や家具などを買ってくれた。これまでに買ってくれたものは、大型テレビ、テレビゲーム、ゲームソフト、包丁セット、ル・クルーゼの鍋、ベッドなど……。
 
「ウチで使うものは基本、田中さんが全部買ってくれました。だから、家賃と普段着る洋服くらいしかお金を使わないんですよね」
 
 そのため、わずか十数万円の手取りにもかかわらず、月に1~2万円は貯金すらできるようになったと言う。
 

 愛人男性の前は、男性経験はひとりだけ

ーーでも、当時21歳でしょ? それまでの男性経験は?

「地元で、高校時代に付き合っていた彼氏と初体験をして、その後何回か……っていう程度。だから、田中さんは私にとって2人目ですね」

ーー若さをムダにしてない? 別れようとは思わないの?

「……それはちょっと思いますね。別に好きでも嫌いでもないし、いるといるで便利だから別れる理由がないんですよね。『今月金欠なんだよね』とかいうと、現金で1~2万円くれることもあるし」
 
 ちなみに田中さんに、「奥さんにバレたら怒られるのかな? 私、慰謝料とか請求されたりしないの?」と聞いたことがあるという。すると、田中さんは、「妻とは子どもが生まれた後、ずっとセックスレスだし、夕飯も作らないくらいだから、何も気にしてないと思う」と答えたという。
 
 田中さんが毎月使っているお金をざっと計算してみた。

 一人暮らしの女性の食費、雑費で約2~3万円。たまに買う家電や家具が多くて1回5万円程度で、月にすると2万円強。つまり、1カ月で使う金額は約5万円である。一般のサラリーマンにしてみてば、小遣いとしてはやや高額といったところだろうか。

 だが、風俗に行けば2回分の金額だ。サクラさんと田中さんの密会は、月に2~3度だというから、1回あたりに換算すると、約1万9,000円~2万5000円。風俗で射精を目的としたつかの間の関係を持つのではなく、サクラちゃんと田中さんの間には、曲がりなりにも継続的な関係があり、射精目的だけではない時間も流れている。サクラさんの手料理でもてなしてもらい、会話をして、一緒に風呂に入り、最後はベッドで肌を重ねる。

 だが、恋愛感情があるわけではなく、友人でもない。そして、サクラさんは田中さんのことを信頼もしていない。そこに1回2万円前後……。
 
「お互いにとってメリットしかない都合のいい関係なんですよ。私は彼の私生活に興味ないし、恋人として付き合う気もないし」
 
 サクラさんはそう嘯くが、端から見るとどうしても、若さを刻一刻と失っていくサクラさんがソンばかりしているように見えてしまう。ものすごい安いわけではないけれど、決して高くない金額でいいように使われている。そう見えるのだ。
 
 現に、サクラさんはこう言う。

「中途半端に彼氏みたいな人がいて、彼の存在によって金銭的にも助かっているから手放すのが惜しい。だから、本気で彼氏を作ろうと思えないんですよね」
 
 このままだとズルズルと関係を続けてしまう気がする……そんな恐怖を感じているのだろう。
 

 別れるチャンスは何回かあった

 この短くない交際期間で、別れるチャンスは何回かあった。

「最近、お見合いっていいかもって思っちゃうんですよね。彼のおかげでだいぶ貯金もできたし、結婚相談所にでも登録をして、条件のいい人と結婚しようかなって考えることがよくあります」

 まずは、専門学校を卒業して、就職したとき。収入が20万円弱になり暮らしは楽になったが、仕事を覚えるのが大変な時期で、「私も社会人になったし、そろそろ別れたい」と告げようか、悩んだ時期もあった。

 次は、少し仕事を任させれるようになり、残業が増えた時期。帰るのが遅くなり、会える時間が短くなった。だが、「就職したばかりの時って、慣れなくて大変だよね」「働くって、バイトと違うでしょう」などと田中さんはサクラさんの気持ちに寄り添い、愚痴をよく聞いてくれた。また、「忙しい時期は無理しないで、会える時に会えばいいんじゃない?」などと田中さんは臨機応変に動いた。
 
 若い女性の内面を見抜くことなどわけない中年男性によってほだされ、別れのタイミングを失い、サクラさんはズルズルと関係を続けてしまった。明らかに、田中さんにとってサクラさんは“都合のいい相手”だろう。中途半端な関係を続けるうちに、サクラさんは大事なものを失っていったのではないか? そんな気がしてならなかった。
(協力:オフィスキング)

最終更新:2017/09/24 19:00
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