結婚できない男1000万人超、中国に見る「拝金主義」が染み付いた“婚活”が問うもの
さて、お見合い相手の女性は車に乗りつけてやってきた。離婚経験がある30代だ。お見合いした後、楊さんの母親が「礼金だから受け取ってよ」とお金を渡そうとしている。だが女性は受け取らず、逃げるように車を走らせて帰って行った。「飯もろくに食わずに急いで帰ろうとしていたし、話すときもそっぽを向いて目すら合わせてくれなかった」――砂煙の中、楊さんは呆然と立ち尽くす。
また、お見合いの際に彼女と交換したのであろうLINEに、「俺はストレートな性格だからあなたの気持ちを教えて」「なんで何も言わないの?」「大丈夫 俺打たれ強いから」などとメッセージを送っているが、まったく返事がないという。それでいて、相手のことを冷酷に批評する。「彼女は都会に憧れているけど都会の男からは相手にされない、農村の生まれなのに農村には住みたくない。そういうタイプなんじゃないか」。
その後、彼女から電話がかかってきた。楊さんは早速「あんたの気持ちを聞かせてよ」と切り出す。20秒ほど間があり、彼女は「特に悪い印象は持たなかったわ。いろいろもてなしてくれてありがとう」と言葉を告げた。楊さんが笑った。「おれは今、時間があるから、いつでもいいから電話ちょうだいね。今度どっか行こうね」。電話を切ると、目を輝かせて番組スタッフに「はい、形勢逆転です」と報告。
女の本心は「金、車、家。物欲生活を望んでる」
後日、カメラは楊さんのデートを追っていた。どこかの花畑へ向かっている道すがら、意外と楽しげに2人は会話している。ところがその後、彼女はなにやら、立て込んだ電話に応じていた。不穏な雰囲気である。
画面が切り替わり、楊さんが夜道を寂しげに歩く後ろ姿が映し出されていた。聞いてみるとおしゃべりの最中に突然、「今そんな気分じゃないって言いだしたんだ。あなたには解決できないことなの」と打ち明けられたと言う。楊さんが「話してくれないとわからない」と問いただすと、「20万元(約330万円)くれる?」と借金を明かしたらしい。さらに彼女は、「私のために20万元を出せる?」と確かめてきた。楊さんは、「それは俺とあんたの関係次第」と返した。
それ以外も、貯金額についてしつこく聞いてきたが、「俺は教えなかったよ」と、精一杯の強がり。そして「彼女の本当の目的は何なのか、それがわかるまで探り合いだね」と割り切り、「彼女は平凡な生活を送りたいと言っていたけど、本心は金、車、家。物欲生活を望んでるんじゃないかな」と、心のうちを推測した。楊さんはその後、彼女からLINEをブロックされ、音信不通となった。やはり目的は金だったのか。
石油会社の社員「大金も女もついてくる」
3人目の光棍児は馬雲飛(ま・うんひ)42歳。彼は慶陽市内に4店舗をもつ人気の整体師だ。小太りで、少し腹が突き出ている。彼は仕事帰り、何もない簡素なアパートで生い立ちを語る。
彼の意中の相手は、保険会社の契約社員で、夢はエステ店を持つことだという27歳。彼女は先ほどの女性よりかなり気まぐれだった。馬さんのことを「勝ち組」と持ち上げ、さらに「こんな田舎を捨てて海辺の町にオーシャンビューの家を買ってよ。私も30になるし遊んでる年じゃないから」と、思わせぶりなことを言ってみせたかと思えば、別の日には、隣で話している馬さんを遮って、スマホを眺めながら「それよりも今3万元(約50万円)する保険のソフトを買えなくて困ってるのよ」とおねだりしてくる。これによって全国の顧客データを調べることができるのだという。馬さんも「甘えて来たと思ったら急に冷めて。この情緒不安定さには参るね」と苦笑。
別の日。馬さんが、女性へ「こっちには何時に着きそう?」と電話をかけると、「ほかの用事があるから、そっちには行かないわ」と、まさかのドタキャン。「一緒に晩飯食う約束したじゃない? どうしてくれるんだよ」と、スマホを見つめながら「来ないってさ。約束したのに……」と恨み節。
一方、とある店。そこには誰の目から見ても明らかなイケメンたちが、数人の女性といわばカラオケ合コンをしていた。広いフロアで歌い、踊り、飲んでいる。すると1人の男性が「来てくれたね」と出迎えたのが、先ほどの女性だった。おそらくだが、彼女が約束をドタキャンしたあと、番組スタッフが個別に連絡。「ほかの用事」が何なのか尋ねて、合コン場所に先回りして撮っていたのだろう。
イケメンの1人は事も無げに言う。「親の七光りで国有石油会社に入った。金の苦労は何もしてない。大金も女もついてくる」。女性は笑顔を振りまいていた。実に楽しそうだ。男性へのボディタッチもカメラの前で平気でやる。はしゃぎ、歌い、踊り、飲み、乱痴気騒ぎ。そして男女に分かれて、何やらヒソヒソ話をし始めた……。
一方、ドタキャンを食らった馬さんは、部屋で1人、箱からバッグを取り出しながら、「プレゼントしようと思って買ったけど、いらないと言われたんだ。『私なんかよりもっときれいな人と付き合ったほうがいいよ』と言われた。なんでそんなこと言うのかな」と嘆いていた。
光棍児が問いかけるもの
圧倒的な売り手市場の中で、女性に男性はいくらでも寄ってくる。そして女性は、彼らを切り捨てようと思えばいくらでも切り捨てられると考えているようだ。もちろん、中国にはこういった男性や女性ばかりではないだろう。愛される喜びを知る人もいるはずだ。だがこれはまぎれもない現実であり、こうしたむきだしの欲望に面食らいつつも、その打算や策略に心当たりがある人も少なくないだろう。
「一人っ子政策」といういびつな社会の構造が生んだ「光棍児」だが、彼らの姿は、人を好きになるということとは? 幸せとは? 金とは? 結婚とは? と、普遍的な問いをこちらに投げかけてくるものだった。