東村アキコ、「結婚したい30代への助言」に見る矛盾――『東京タラレバ娘』に欠けていたモノ
しかし、それは私の見当違いだった。まだ読んでいない方のために詳細は書かないでおくが、「若くなければどうしたらいいのか」についての答えはなかった。「結婚したからといって幸せではない」「幸せは自分の心が決める」と言われてしまえばそれまでだが、執拗に年齢や独身であることをディスられた主人公(と読者)たちは、“やられ損”ではないだろうか。はしごを外されたと感じたのは、私だけではなかったはずだ。
連載を終えた東村は、「CLASSY.」(光文社)のインタビュー企画「30代がくれたもの」に登場した。結婚したい「CLASSY.」読者に向けて一言という質問に対し、東村は「ツッコミ気質をやめること」と答えている。東村いわく、30代の女性は、合コン相手の「ネクタイの柄が変」とか「なんで飲み放題にしなかったの?」といった細かいことに目がいきがち。「たおやか」に振る舞い、ツッコミは裏でオンナ同士とすべきと答えていた。
ここで思い出すのが、東村の“女子会批判”である。東村は『東京タラレバ娘』の1巻から最終巻まで、一貫して「結婚したいなら、女子会は減らすべき」と書いている。が、「ネクタイの柄が変」な男に会ったことを、オンナ同士で話して発散するのが“女子会”なのではないだろうか。悪口は女子会で言え、でも、女子会をしていると結婚ができなくなるという東村理論は、矛盾しているのだ。
私に言わせるのなら、タラレバ娘たちは、ツッコミが足りないのだ。例えば、「ネクタイの柄が変」な男に会ったら、なぜそのネクタイを選んだのか(相手にも理由があるはず)、なぜネクタイの柄が変だと自分はイヤなのか(自分が相手に望む譲れない条件の1つに、“自分好みのファッションセンスの人”が入っていることがわかるはずである)などというツッコミだ。
ツッコミは自分にも入れなければ、フェアではない。「ネクタイの柄が変」と思う自分のセンスは、絶対に正しいのか。男性から見て、自分のファッションも「変だ」と思われている可能性はないか。もっというと「結婚願望がありながら、ずっと彼氏がいなかったのはなぜなのか」など、ツッコミどころはたくさんあるはずだ。もっと、相手や自分に向き合っていいのではないか。
最終巻まで読んだが、少女漫画の醍醐味の1つである男性キャラクターの魅力が、私には伝わってこなかった。倫子はKEYのどこがよかったのだろうか。若いイケメン芸能人だから? だとしたら、女性を年齢で選ぶ男性とたいして変わらない気がする。
倫子はKEYに「あなたの幸せが私の幸せ」と言っていたが、イケメンになら何をされても好きで、昭和ど演歌のようにすがり、早坂のような“いい人”はナメてかかる。こういった男性観は、少女漫画としても、実際のパートナーシップという意味でも、ズレていると感じずにいられない。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、最新刊は『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
ブログ「もさ子の女たるもの」