相模原障害者施設殺傷事件・植松聖被告は、内向的だけど目立ちたい「アンバランスな人間」【THE 筆跡鑑定ファイル】
――以前、宮崎勤や酒鬼薔薇聖斗についても伺いましたが、犯行声明文の、内容を一切読まずとも、筆跡だけで、一見ゾワッとなるような感覚が、植松被告の文字にはないですね。筆跡自体は普通です。
牧野 植松被告は安全圏にいるわけです。自らに危害が及ぶような修羅場を乗り越える度胸はないということです。わかりやすく言えば、「弱い者いじめ」をする人間だということでしょう。 また、「無」の字に見られるれっか(下の四つの点々)ですが、散開させず、すぼまったように書かれています。これは「明るく社交的にふるまうことが苦手な内向的な人」の書き方です。さらに「植」と「松」は、木へんの縦画の上部への突出があまりないことから、自分が矢面に立たず、人の後ろから様子をうかがう面もあるようです。一方で、縦書きの「思」の下の「心」の部分など、左右の払いは大きく払われています。これは「目立ちたい、スポットライトを浴びたい、自分の世界に没頭し、なりきる」といった、自己顕示欲につながる書き方です。
――以前鑑定した松居一代さんの筆跡は「すぼまる、縮こまる」とは一切無縁の、自信みなぎるダイナミックな筆跡でした。
牧野 植松被告は自分に自信がなく内向的であるのに、強烈な自己顕示欲はある。このような心のバランスの悪さを、コントロールできなかったのでしょう。また、ハネが弱いのですが、これは責任感の乏しさや、待つのが苦手であること、思考面も行動面も自分の型にはまっており、融通性が乏しいことが読み解けます。
――「自己顕示欲は強いのに自信がなくて内向的」な人って、ネット、特にSNS上でよく見かけますね。
牧野 ただ、誤解しないでもらいたいのですが、これらの特徴自体は、別に悪いことではありません。考え方や行動面で融通が利かないのは、言葉を変えると生真面目で実直。ハネが弱い(=責任感がない)は、切り替えが速いともいえます。人によって、持っている気質は、良く出ることもあれば悪く出ることもあります。
――人の長所は、裏返せば、その人の短所でもありますよね。
牧野 はい。ですから、一概に筆跡の特徴で、善良な人や悪人が決められるわけではありません。その人の持つ価値観、生き方と筆跡の特徴の組み合わせによって、その人の行動が決まってくるわけです。植松被告は犯罪を実行すると自分で決めて、自身の持つ気質に沿った手口で、それを行ったのです。
(石徹白未亜)
牧野秀美
筆跡鑑定人。筆跡アドバイザー・マスター。筆跡心理学をもとにした鑑定と診断を行う。著書に『自分のイヤなところは直る』(東邦出版)
・ほっかいどう筆跡鑑定研究所