カルチャー
東京新聞社会部記者・望月衣塑子さんインタビュー(後編)

「山口敬之レイプ疑惑」に新たな事実も!? 東京新聞・望月衣塑子記者が語る、報道の裏側

2017/07/13 15:00

――そうしたことを、詩織さんが顔や実名を出して訴えたのは、大きなリスクを伴いますし、非常に勇気ある行動だと思いました。

望月 そもそも詩織さんの事件は、山口氏が当時TBSワシントン支局長でありながら、「週刊文春」(文藝春秋)に「ベトナムに韓国軍の慰安所があった」という内容の記事を書いたため、会社から日本に呼び戻された際に起きています。山口氏は4月23日に支局長を解任されて営業に異動、その後、自ら会社を辞めています。警察も初めは「TBSワシントン支局長が相手では難しい」「準強姦(ごうかん)罪は動画がないと起訴は難しい」などと、被害届を受けたがらなかったらしいのですが、山口氏が営業に異動になった後、詩織さんや彼女の友人の供述や、タクシーのドライバーの証言、ホテルの防犯カメラに映っていた詩織さんが山口氏に引きずられているように見える動画などの証拠が集まるようになり、捜査が本格化していったそうです。

 詩織さんは準強姦罪の不起訴不当を訴え続けていますが、ジャーナリストとして活動するために、検察審査会に訴えたわけではないと言います。本来は、フリーランスのジャーナリストとしてやっていきたいのですが、この問題で自分が実名で声を上げずに示談で済ませてしまったら、ほかの性被害者の人がもっともっと声を上げにくいような世の中になってしまうのではないかと思ったそうです。一時期は、性被害者の団体に入って、そこの団体をサポートしようとも考えたそうなのですが、やはり日本の社会や法律を変えるために、自分が実名で出ていくことを選んだのだと思います。彼女は、市井の被害者ですが、戦っている相手のバックには、山口氏がかつて深く食い込んでいた安倍首相はじめ、強力な安倍政権があると感じており、権力を敵に回すのはとても恐ろしいはずです。28歳の女性にその覚悟ができるのは本当にすごいことで、かなりの覚悟と勇気が必要だったでしょう。しかし、話を聞くほど、彼女には自分のこと以上に、社会を変えていきたいという使命感のようなものが強くあると感じました。

 一方、山口氏は、詩織さんの実名告発会見を受けて、フェイスブック上で「私は法に触れる事は一切していません。ですから、一昨年の6月以降当局の調査に誠心誠意対応しました。当該女性が今回会見で主張した論点も含め、1年余りにわたる証拠に基づいた精密な調査が行われ、結果として不起訴という結論が出ました。よって私は容疑者でも被疑者でもありません。もちろん、不起訴処分の当事者は皆、検察審査会に不服申立する権利を有していますから、申立が行われたのであれば、私は今まで通り誠心誠意対応します」と反論しています。

 事件に関し、先日「ニューヨーク・タイムズ」の記者と話したところ、「アメリカだと、このような事件は政権が崩れるほどの超政治問題になるのに、日本のマスコミはなぜ騒がないのか」と、何度も何度も繰り返し質問されました。加計学園の疑惑はテレビで扱っていますが、詩織さんの場合は日本テレビ以外のテレビ局では、ほぼ放映されていません。取り上げない大きな理由のひとつには、一度不起訴になった人はたくさんいるので、なぜ、あえてこの件を取り上げるのかという指摘があり、新聞で書くにも壁があるのは確かです 

 しかし、この件に関しては、複数の国会議員が疑問視しており、今後、国会の場なども含めて議題として取り上げられ、新たな事実が浮き彫りになってくる可能性もあります。

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