『極道の妻たち』の岩下志麻みたいな姐さんはいない――極道いろいろ、極妻もいろいろ
皆様、はじめまして。待田芳子と申します。
オットは某指定組織の三次団体幹部、つまりヤクザでした。「でした」というのは少し前に刑務所で病死したからなのですが、近ごろの暴力団排除は本当にひどいなあと思います。大都市を中心に、ヤクザは妻までがクレジットカードを止められ、銀行口座や生命保険を解約され、子どもたちは保育園や私学で入園・入学を拒否されています。私は以前からメディアの取材は積極的に受けさせていただくようにして、そうしたことを、なるべく記者さんたちに丁寧にお話をして、記事に反映してもらえるようにしてきました。ちゃんと聞いて原稿にしてくださる記者さんも少なくなく、そういったご縁から、今回の執筆の機会をいただくことになった次第です。
■コワモテなのにひらがなもロクに読めない・書けないのは普通
最近は子どものために離婚している極妻さんも増えていますし、ヤクザをやめるお父さんも目立ちます。でも、それって数字上のことなので、「ヤクザが減った」「暴排の効果だ」と喜ぶことではないと思います。だって、今までヤクザとして生きてきた人がそうカンタンに仕事を見つけられるわけがないのですから。
そもそも皆さんが思われるほど、ヤクザ社会はギスギスしていませんでした(今はシノギがないので、ややギスギスしてきましたが)。
ヤクザになる人は、主に家庭の事情で学校に行けなかった人が大半ですから、コワモテなのにひらがなもロクに読めない・書けないのは普通です。それだけで本が何冊も書けるくらいおバカなエピソードがありますが、そんなこんなを仲間内でネタにして笑いとばし、助け合ってきたのです。
たとえば、みんなでちょっといいレストランに行って、オットが「サンペレグリノ」を頼んだことがありました。サービスの手間暇も考えて、若い衆たちがこぞって「オレも」「ワシも」となるのは、いつものことです。でも、この時は運ばれたグラスを口にした1人が「なんや、これっ? ただの水やんか! コラッ!」と叫び、ボーイさんが笑いをこらえていました。
暴排条例施行の前で、みんな赤いシャツやらスキンヘッドやらの“いかにも”な外見だったので、余計に面白かったのだと思います。オットも「このバカ、ミネラル・ウォーターも知らんのか!」とウケていましたが、「まあワシも昔はそうやったなあ」と遠い目をしていました。
こんなメンバーは、だいたい懲役に行って読み書きを覚えます。刑務所とは「侠(おとこ)を磨く場」といわれますが、その前に学校で勉強しなかったことを教えてくれる場所でもあるのです。
覚えたてのたどたどしい字で、刑務所から「ねえさんの、つくってくれた、かれーらいすがまたたべたいです」なんて手紙が来ると、ホロっとしますね。ヤクザになるコたちは、ほとんどが親の愛に恵まれていません。人間関係に問題があるのはそのせいでしょうね。それでも上下関係が厳しい組にいられるコたちのほうが、まだ更生の見込みはあるかもしれませんよ。