カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」4月25日号

「婦人公論」で始まった鈴木保奈美のエッセー、80年代引きずりまくりの文体の時代錯誤感

2017/04/19 21:00

 「結婚してからというもの、睡眠はなかなか取りにくくなりました。これまでの自分の生活プラス、パートナーである主人のサポートをするようになり、やることが2倍ですから」と、ほぼ寝ずに夫の世話をしていると語る紀香。夫の健康に気を配り「ご飯は釜で炊いて和食を作る」「栄養士の友人や実家の母などから、ヘルシー料理を教えてもらったり」、また「私がいると冷蔵庫すら開けません」という夫のために「彼の座るテーブルのすぐ見えるところに常温のお水をいつも置いています」「手の届く範囲に、必要なものを全部置いてあるのです。必需品用の整理箱をオーダーして作りました」と、なにからなにまでメーターが振り切れる女、紀香。

 しかし面白いのはここからで「え? ずぼら? そうは思いません。だって、楽屋で歌舞伎役者の仕事の内容や、大変さを見ているでしょう。(中略)家でぐらいはのんびりと根を生やしてもらえれば、と」。おそらくインタビュアーは、「ずぼらですね~」とは言ってないと思います。紀香の脳内ストーリーテラーがそう言ってるのでしょう。「私は本来、三枚目な性格で、周りの友人たちは、テレビのイメージとは全然違うよね、といつも笑っていますね」「デビューしてからずっと、そのギャップの中で生きてきた感じがします」と話す紀香ですが、声を大にして言いたい。もう大抵の人はわかってる。たぶんギャップがあると思っているのは……ご本人だけっす。

■声に出して読みたい鈴木保奈美文体

 今号から新しい連載がいくつかスタートしました。女優・鈴木保奈美の「獅子座、A型、丙牛。」、前号で桃井かおりとカッコイイ女対談したキャスティングディレクター・奈良橋陽子の「ビューティフル・ネーム」、そして清水ミチコがゲストを招く鼎談スタイルの「清水ミチコの三人寄れば無礼講」の3本。

 鈴木が今年51歳、清水57歳。本格的にバブル世代が「婦人公論」に食い込んでいるということなのでしょう。トレンディの波にもまれてきた世代が、老後や年金不安、自立しない子どもに頭を悩ませ始めているのか……と感慨深いものがあります。しかしそんな感慨を一気に吹き飛ばしてくれたのが、鈴木の一人語りエッセー。女優のエッセーなんて……と高を括らず、ぜひぜひお読みいただきたい逸品です。

 初回のタイトルは「奇跡のギャップ萌え」。サンローランのタキシードスーツに12センチのヒール、髪をくしゃくしゃにセットし「クールでアンニュイないい女」として、とある映画の舞台挨拶へ臨んだときのこと。休憩中に「3年前の誕生日に娘が買ってくれたピンクのハート柄の水筒」で白湯を飲んでいたら、30歳くらいのイケメン俳優に「ギャップ萌えっす!」と言われたという、他愛もないお話でございます。しかし鈴木の80年代を引きずりまくった文体が、他愛もないお話に最高のスパイスを加えているのです。

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