サイゾーウーマンカルチャーインタビューはみ出し者が扉を開く映画『ぼくと魔法の言葉たち』 カルチャー 映画『ぼくと魔法の言葉たち』ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督インタビュー ゲイで黒人の自分も「そういう存在」だから――はみ出し者が扉を開く映画『ぼくと魔法の言葉たち』 2017/04/08 16:00 ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督 映画『ぼくと魔法の言葉たち』(2017年4月8日公開)は、自閉症の少年・オーウェンが自立する姿を追い駆けたドキュメンタリー作品だ。2歳のときに自閉症により、言葉を発しなくなったオーウェン・サスカインド。そんな彼が、ある日、大好きなディズニーアニメーションのセリフを発し、そこから心の扉を開いていく。自閉症の彼を、実にユーモラスに愛情いっぱいに映し出した本作を作り上げたのは、デビュー作『Music by Prudence』で、アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞したロジャー・ロス・ウィリアムズ監督。来日した監督に、オーウェンとの日々、自閉症の堅い扉を開くまでのこと、自身が乗り越えた疎外感について語っていただいた。 ■社会からはみ出した人物を撮るのは、自分もそういう存在だから ――自閉症の少年が青年へと成長していく本作は、涙涙の感動作というより、オーウェンの楽しいキャラクターのおかげで、ユニークな青年の映画になったと思います。もともとオーウェンの父親(ロン)と知り合いだったそうですが、この作品はそこからスタートしたのでしょうか。 ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督(以下、ウィリアムズ) ロンは長年の友人で、彼はピューリッツァー賞作家でもあります。彼がオーウェンについて書いた『ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと』という本があるのですが、この本の執筆中に僕はオーウェンとディズニーアニメーションの関係を彼から聞いて「これは映画になる」と思いました。撮影当初、僕には自閉症の知識もなく、オーウェンとどう接していいのか戸惑ったのですが、彼と長い時間一緒にいるうちにわかったんです。自閉症は障害ではなく、個性、人との相違なのです。 ――監督は社会からはみ出した人物を映画のテーマに取り上げることが多いですが、それはなぜでしょう。 ウィリアムズ 僕は、自分もその仲間だと思っているからです。ゲイで黒人の自分もそういう存在だと思っていましたし、オーウェンと同じように幼いときは疎外感がありました。オーウェンは幼少期、まったく話せなかったのに、ディズニーアニメーション『リトル・マーメイド』のセリフをつぶやいたことをきっかけに、外への扉が開かれます。僕の場合は、物語を綴ることでしたね。物語作りに関してはアクティブな想像力を発揮して、子どもの頃から短編を書いていましたし、作文の授業は大好きでした。ストーリーテリングをし続けてきたことが、創造力の訓練になり、クリエイティブな筋肉がついたと思います。そして、オーウェンはストーリーを読むエキスパート。ディズニーの寓話を介して世界、生き方を読み取っているんです。 ――ディズニーを通して世界、生き方を読み取るというのは、具体的にどういうことでしょう。 ウィリアムズ 僕はオーウェンほどディズニーアニメーションに詳しくはないし、影響は受けなかったけど、それでもポピュラーな作品はいくつか見ています。ディズニーの物語は基本クラシックな寓話で、それらを現代風にアレンジしてアップデートしているのです。ストーリーの基本は、人と人をつなげている“もの”で、オーウェンはそこで外の世界とつながったんですよ。最初は人と直接かかわることはなかったけど、ディズニーアニメーションのセリフを覚えて、それを介してコンタクトを取れるようになっていったんです。ディズニーの世界を介して人生を掴みとったというのは、そういうことです。 映画を見ていただくとわかるのですが、彼はガラリと変わります。そして青年になった今、彼はご両親が驚くほど社交性が出てきました。この映画はアカデミー賞ドキュメンタリー賞の候補になり、私とオーウェンは授賞式のレッドカーペットを歩きましたが、全然人と話せなかった彼が、いまやレッドカーペットでスポットライトを浴びて、インタビューで話せるくらいになったんですよ(笑)。 ――自閉症の子どもとの接し方に悩んでいる人には、オーウェンと家族の姿に、そのヒントがありそうな気がします。 ウィリアムズ ありますね。サスカインド夫妻はいいお手本になると思います。最初、オーウェンが自閉症になり話せなくなったとき、父親のロンは悩み「まるで息子が誘拐されてしまったような気持ちだ」と語っていました。でも、夫婦は諦めなかった。特にオーウェンの母親・コーネリアスは、ずっとオーウェンに付き添って、彼とつながる方法を探し続けた。そして彼女はディズニーアニメに気付いたのです。 一番大切なのは、自分たちのいる世界にオーウェンを戻そうとせず、彼のいるディズニーアニメの世界へと入って行ったことです。一緒にセリフで会話をしたりして、ディズニーアニメの世界の住人になった。だからオーウェンはディズニーを介して扉を開けることができたのです。 次のページ 「オーウェンが私たちに声を与えてくれた」というメッセージがうれしかった 12次のページ Amazon ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと 関連記事 カルト村出身者が語る、清水富美加「出家騒動」と宗教に対する社会の偏見“社会的弱者のお涙頂戴”は狙いではない——「東京ろう映画祭」初開催の意図とは?少女が早く大人になることを強いる沖縄の社会――暴力の連鎖が生む格差と矛盾「発達障害があるから、アタシは“さかもと未明”になった」生きづらさを抱える人に漫画で届ける希望愛子さまの登校チェックから、悠仁さま運動会潜入まで!? 現役“皇室記者”インタビュー