アイドルや宗教は家族の代わりになるか? 無縁の共同体の可能性――佐々木俊尚×白河桃子対談
――お2人とも切り口は異なるものの、ライフスタイルや家族をテーマに、講演や執筆をされているかと思います。まずは、近著を手掛けられたきっかけについて教えてください。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木) 私は「グローバリゼーションと近代の終わり」や「テクノロジーの進化」などをライフワークとしていますが、この2つの変化が我々の生活に徐々に侵食し、人間社会に何をもたらすのかを考察し続けています。特に、東日本大震災以降の5年は、「新しいライフスタイルって何なのか」ということについて考えるようになり、その集大成として『そして、暮らしは共同体になる。』を書きました。
白河桃子氏(以下、白河) 私は、これまで家族が担ってきたセーフティネットとしての機能が「核家族化」「未婚化」「男性大黒柱型機能の喪失」によって限界が来ていることを感じています。しかし「共働き共育て」の夫婦への移行もすすまない。気になっていた「アイドルと女性たち」、そして「そこから派生するライフスタイルと家族の絡み」について書きたいと思いました。
――「家族」という装置に求められてきたものが、徐々にアイドルへと転化していっている点を突かれていて、とても興味深かったです。
白河 アイドルを追いかける“大人の女性”がいるのは、日本だけの現象なんですよね。そもそもアイドルの機能のひとつには、「癒やし」があります。お母さんって、いつも家族を応援しているのに、自分を応援してくれる人は誰もいないんですよね。そこをケアしてくれるのがアイドルという存在。女性たちはアイドルを家族の中に取り込むことによって、逆にそれが「安全弁」の役割をして、家族の機能を維持していることに気がつきました。取材をさせていただくと、アイドルの写真を家族写真に紛れ込ませて飾っている方もいました。こうした例からも、アイドルがアイドルの枠を超えて、家族と同化しているのは、日本ならではかもしれません。
佐々木 一見すると「AKB48と男性ファン」の図式に似ていますが、男性と女性ではアイドルに対する向き合い方が違いますよね。宗教に置き換えると、男性は「神と自分の一対一」、女性は「教会に集まる人たちとの共同体」を重視しているように感じます。女性は神を中心に据えた横のつながりを大事にするんですよね。追いかけているアイドルを中心に、新しい共同体みたいなものがつながっていくのかな。
白河 男性はファン同士でも競争関係、女性たちは共感関係でした。「SMAPがなくなると、コミュニティがなくなる」という話を耳にしましたが、今のお話を聞いて、なるほどと思いました。
佐々木 もともと、宗教って自然に共同体ができるんですよ。共同体が希薄になってきている現代では、宗教的なものを拠り所にしようとする感覚は理解できます。どちらかというと、“ふわっとした宗教感覚”、たとえばパワースポットとか神社仏閣巡りとか、そういうものが新しい共同体の核になるんじゃないかと思うんです。これって、アイドルの話と、どこかで重なるような感じがします。