親が離婚した子の「幸せ」とは? わが子に会えない父親の本音と「親子断絶防止法」の意味
■当事者の中でも賛否ある「親子断絶防止法案」
――夫婦の合意がないままの「子連れ別居」を実質的に禁止し、離婚後も子どもとの面会交流を原則的に義務づける親子断絶防止法案についてはどう考えていますか?
西牟田 当事者の中でも賛否はあります。可決されれば、共同親権を実現するための一里塚となり得るでしょうが、運用次第では面会が困難になるケースも出てくるだろうし、現在の条文だけ見ても、どれだけ効力があるのが疑問です。ただ、DVに関しては個別に考えるべきです。面会を求める父親全員が暴力を振るうわけではない。そもそもそのこの法案が求めているのは、最初の連れ去りをやめてほしいということなんですね。突然、子どもに会えなくなるのはショックですから。
――最終的には共同親権を実現するべきだと思いますか?
西牟田 父親に暴力的な傾向がある、母親や子どもが折檻されていたケースは個別に考えなくてはなりませんが、現状の単独親権のみというのはあまりにも切ないし、生き方が多様化している時代にそぐわない。そもそも現状の離婚制度そのものが、簡素すぎて悲劇を招いている側面もあります。
兵庫県明石市が行っている〈子ども養育支援に関する取り組み〉では、子どもの養育に関する合意書などの参考書式を離婚届に挟んで配布し、相談体制の充実やネットワーク会議を立ち上げて関係機関との連携を図るなど、自治体が積極的に動いています。協議離婚でも養育費、面会などの取り決めを促したり、母親が元夫に顔を会わせるのが嫌でも第三者が介入して面会させたり、自治体が踏み込む余地はあると思います。
――子どものメンタルが不安定になるから、父親に面会させない母親もいます。
西牟田 父親と面会することで母親の機嫌が悪くなることを心配したり、両親のいさかいを思い出して不安定になったりすることはあるでしょうね。でも、長い目で見ると、子ども自身が自分のルーツを知ることができるし、こんなにも愛してくれる人がいると実感できれば、自己肯定感が高まる場合もある。長期間、調停をしてまで面会したい人は愛情を持っている人が大多数なので、子どものためにも会わせてもいいのでは。ただし、子どもに全く会おうとしない人のケースは別です。
■労働環境の改善を含め、複合的な問題
――現状、父親側に子どもに会うためのオプションが少なすぎるのが問題ということでしょうか?
西牟田 家族形態が多様化する中で、離婚後の制度設計が追いついていないことで悲劇が生まれている側面があります。父親の育児参加が浸透する一方で、単身赴任や長時間労働など男性は「働く存在」であることが前提となっている企業も根強く存在する。労働環境の改善を含め、複合的な問題です。今後、別れた親も子育てに参加したい、子どもに会いたい親たちの声はますます大きくなるでしょう。それに応じて社会の仕組みも変化せざるを得ないでしょう。
――今後、女性側の意見を取材する予定はありますか?
西牟田 女性側を取材するなら、今回登場した18人の元奥さんに取材するのが筋なんですが、実際は守秘義務もありますし、僕が元奥さん側に連絡したことで面会が遮断されるのが一番怖い。それにシングルマザーに関する書籍もたくさんあるのに、いまさら自分がやる必要もないのかと思っていましたが、女性側にも取材すべきとの声もいただくので、なぜ会わせないのか、面会させてどんなひどい目にあったのか、母親側、子ども側のメンタルの変化を追う取材ができればと思っています。
(松田松口)