カルチャー
『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』著者・山本潤さんインタビュー

「性被害は被災と同じくらい大変なこと」被害者支援の立場から見た、性暴力を取り巻く社会の現状

2017/03/21 15:00
山本潤さん

 3月7日、政府は性犯罪の処罰のあり方を110年ぶりに見直し、厳罰化する刑法改正案を閣議決定した。この法案が通れば、男女とも性被害者として認められ、告訴なしで立件できるようになる。『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』(朝日新聞出版)を上梓した山本潤さんは、13歳の頃から実の父親から性暴力を受けていた被害者で、現在は性暴力被害者を支援する活動を行っている。今回の刑法改正で性被害の実情がどう変わるのか、山本さんに話を聞いた。

■性被害からの回復は、人との間で本来の自分を取り戻していくこと

――山本さんは著書の中で、大変つらい経験を乗り越えたことを書かれています。そのような経験を書くという作業は大変だったと思いますが、出版に至った経緯を教えてください。

山本潤さん(以下、山本) 昨年の2月1日に朝日新聞の“ひと”欄に『被害者から見た刑法についての発言をしている「性暴力と刑法を考える当事者の会」の活動をしている山本潤さん』ということで掲載されました。それを朝日新聞出版の編集者さんが見てくれていて。私は各地で講演をしているのですが、熊本の「国民のつどい」で講演をした講演録をネットで読んでくださり、「この内容を深めて本にできると思います」と、お話をいただいて、書くことにしました。

――書いている最中、性被害のフラッシュバックなどは起こりませんでしたか?

山本 思い起こしながら書くので、当時は遮断していたような感覚を取り戻して、深く味わうような感じです。だから、ずっとセラピーを受けながら執筆していました。セラピストさんと一緒に「これはどういうことなのだろうか」と探求しながら書きました。

――分析をしながら書くことによって、回復につながるような効果があったのでしょうか?

山本 私の場合は、「なぜそうなるのか」を自分が知りたいということがあったように思います。私は看護師として働いているので、患者さんの尿の入った尿瓶を扱う業務がありました。その際に尿を飲みたいという思いに襲われたんです。尿を飲みたいだなんて明らかにおかしい話ですし、自分でもなぜかがわからない。でも、あまり考えると、また(心の)傷口から血が吹き出して動揺するので、あまり考えないようにしていたのですが、書かざるを得なくなったので、セラピストさんと掘り起こしてみたら、「ああ、そういうことか」と自分でも納得ができたというか……。必ずしも書くことが必要なわけではなく、感覚的なものなので、被害で受けた傷を言葉にして整理するのはすごく難しいことでもあります。

――回復の方法は人によって違うのですか?

山本 はい。その人の置かれている状況によっても違うし、その人の行動によっても違うと思うのですが、基本的には、人を信頼できるようになるということがすごく大事です。そして、自分自身にも力があると信じられるようになることも大事。やはり、人との間で本来の自分を取り戻していくことですね。だから、セラピストさんを信頼できるかどうかもとても重要です。

――中には相性の合わないセラピストさんもいるということですか?

山本 そうですね。セラピストさんを探すのもすごく大変です。自分に合うセラピストさんをマッチングしてもらえるといいんですけど、なかなかそういうシステムもないので。でも、やはり良いセラピストさんと一緒だったら、“治療同盟”が結べるので、そこでいろいろなことを一緒に経験していくことができます。

――私自身、友人で性被害に遭った人がいるのですが、そういう人とどう接していけばいいのか悩みます。変に元気付けると傷をえぐるだけの場合もありますし……。

山本 やはり、責められたり「あなたが悪いんじゃないの?」と言われたりすることは、とても傷付きます。性被害のトラウマが大変だとわかる人はわかるのですが、“まったく大変と認めない人”や、“大変なんだろうけど、どうすればいいのかわからない人”がいます。

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