『東京タラレバ娘』で“説教芸”に興じる東村アキコは、愚かなお笑い芸人のようだ
細部の詰めも甘く、単行本1巻ACT1では大卒の設定だった倫子が、「KISS」3月号に掲載された「番外編 ビフォータラレバ娘」では専門卒になっていたり、「ビオのシャルドネ」がどうのこうのと言っていた早坂が、7巻ACT23ではカヴァも知らない男に成り下がっていたりと、雑な仕事ぶりが目につく。
これらの瑕疵が悪目立ちするのは、ひとえに本作においては東村先生の最大の武器であるギャグ要素が希薄であることが原因である。決して恋愛が描けない作家ではない。『ひまわりっ ~健一レジェンド~』や『主に泣いてます』(講談社)で見せた、恋する者の感動的な愚直さは、あのギャグの奔流の中でこそ描き得たものなのだ。ところが恋愛要素だけで勝負しようとすると途端に風景は寒々しくなる。これは同時連載中の『海月姫』にも言えることであり、ラブストーリーではないものの最近作の『雪花の虎』(小学館)や『美食探偵 明智五郎』(集英社)がぱっとしない一因でもある。
女性差別的なセリフを乱発した不愉快な前半から、陳腐なラブストーリーを物語る退屈な後半へ。現在までのタラレバを要約するならばそういうことになるだろう。どちらがマシかと言えば作者の語り口が活きていたという点において前半ではあるのだが、それすらもまどろっこしいエクスキューズのせいで相殺されている。東村先生は一体何がしたいのだろうか。
◎「刺さる~」と言いたい人だけが読めばいい
おそらく周囲が、読者が喜んでくれるからそうしているだけなのだ。結婚や恋愛に関して一貫した強いメッセージがあるわけではない。それは「おまけマンガ」で自ら述べているとおりである。では本編のあの言葉たちは何なのかと言えば、求められるからやっただけの(おそらくは『ひまわりっ ~健一レジェンド~』の副主任をルーツとする)説教芸なのだ。その様子もやはり「おまけマンガ」で言い訳されている。1巻では東京オリンピックが決まった直後に「結婚したい」と言い始めたという周囲の女性が、2巻では本作を読んで不安になったという女性芸人たちとの交遊録が(以前はこんなもの描く人じゃなかったのに……)、4巻や7巻では結婚したいと言う女性に道端で突然声を掛けられるエピソードが描かれている。いずれも「求められて仕方なくやった」という体だ。