カルチャー

副作用ばかりが取り沙汰される「ピル」について、子宮内膜症患者が思うこと

2017/03/10 20:00

【前回までのあらすじ】
子宮内膜症治療のための病院探しを本格的に開始した夢子は、訪れた4軒の病院でいわれることが全部食い違っていたので驚いているところなの。

*   *   *

「卵巣、腫れてませんね」といった医師のいる、4軒目の都会の大学病院での話に戻るわね。ていねいにMRIを見てくれたあと、エコー検査を(肛門から)行ったんだけど、その結果はやはり「卵巣は腫れてない」だったわ。

「先々週、別の病院さんでエコーをしたときは『卵巣が腫れている』ということだったんですが……いまは腫れてないのでしょうか?」

 夢子が半信半疑でそう聞くと、医師は穏やかにこう答えたわ。

「そのときは排卵直後で腫れていただけだったんじゃないですかね。卵巣は腫れたりしぼんだりをくり返しますから」
「じゃあ、私の卵巣はチョコレート嚢胞ではない……?」
「チョコレート嚢胞はないですね」

 医師はそういい切ったの。ここ数週間、1軒目と3軒目の病院でいわれたとおり自分がチョコレート嚢胞だと信じ込んでいた夢子は狐につままれた気分だったわ。

(あっぶねぇ~! 3軒目の病院で『卵巣が腫れてるからリュープリン投与しよう』っていわれたのを鵜呑みにしなくて、ほんとうによかったぁ~! 行く病院によって診断がここまで違うって、こええええ!)

 この医師によるMRIとエコーの見解は信頼できそうだと思ったけれど、夢子にはまだ確認しなきゃいけないことがあったの。恐る恐る、こう尋ねたわ。

「あのぅ、治療はどのようになるでしょうか」
「ピルを処方しますから。それで様子みましょう。また3カ月後に来てください」

あっけなく、ピルが処方された

 夢子は再度、拍子抜けする気持ちだったわ。ピルの処方は、1軒目の病院では医師と険悪な攻防戦の末ようやく勝ち取ったし、2軒目と3軒目ではピルのピの字すら出てこなかったじゃない。それがこんなにあっけなく、しかも医師のご機嫌を損ねることもないままに処方してもらえるなんて!!

 うれしさと安堵で身体が少しゆるむのを感じて、夢子は逆に自分がいかにガチガチに緊張していたか気づいたわ。最後に夢子はこう問うたの。

「ところで、私は子宮内膜症、という認識でよいのでしょうか?」
「ん、内膜症『疑い』、ね」

 軽々しく「あなたは子宮内膜症だ!」と断言しない医師に夢子はますます信頼感を持ったわ。そして決めたの。

「この人のことは、漢字で『先生』と呼ぼう!」

 これは夢子なりの通院のコツらしいのよ。「先生」っていう尊称は、自分にとって特別な存在の人という敬意をこめて使うものでしょ。医師や教師はあくまでもお仕事。その職業を担っている人が自分にとっての「先生」がどうかは別、と夢子は思ってるの。「先生」っていう言葉はさ、『スターウォーズ』のヨーダのような人のために大切にとってあるんですって。

 医師を「先生」って呼んでしまったら心理的に対等になりにくいし、その人のいうことをなんでも盲信しやすくなるじゃない。それってとっても危険なことよね。だって2軒目や3軒目の病院でチョコレート嚢胞があるといわれたけれど、結局は違ったんだし。

 だから通院の際、冷静さを保つために夢子は、「この人なら信用できる」と確信した医師のことしか「先生」と呼ばないことにしてるのね。

 ゴマすりするときはわざと「センセイ」っていったりもしてるけどね。夢子が接待目的でこの言葉を使う場合は、漢字の「先生」とは区別してカタカナの「センセイ」をイメージしながらいってるらしいわ。1軒目の病院でピルを処方してもらうために「センセイ」って呼びかけて医師のご機嫌をとっていたけど、あれは全部カタカナだったそうよ。

 社会的に権威のある人にマインドコントロールされないための自衛策よ。些細なことだけど夢子曰く、案外効果あるんですって。

 今回4軒目にして「先生」と呼べる人に出会えて、夢子はとてもうれしかったわ。仕事を半日休んで来た甲斐があった、と思えたのよ。

ピルは保険適用外だった

 めでたくピルを処方してもらえたわけだけれど、当時、ピルは日本で解禁されてはいたものの、子宮内膜症の薬としては認可されてなかったの(※低用量ピルが内膜症の保険適用薬になったのは2008年から)。

 これまで夢子が行ったどの病院もピル処方に積極的じゃなかったのは、それがいちばん大きな理由だったんでしょうね。対してリュープリンは当時から保険が効いたの。当然、病院としてはそっちを使いたいわよね。リュープリンが副作用の多い劇薬でも。

 患者の夢子としては、保険が効くからという理由でリュープリンを使う気には到底なれなかったけどね。リュープリンを使うと出るうつ・骨量低下・高血圧などの副作用のリスクが高すぎると考えたからよ。

 保険適用じゃないピルを処方してもらうには、「自由診療」ということにして自費でお薬を買うのね。その方法だとお値段はそこそこしちゃうんだけどね。しかも、閉経まで毎日何十年にわたって飲みつづけるものだから、費用がかさんじゃうのも確かなのよね~。

ピルのために休暇を取らなければならない

 とはいっても、自費でもピルのお値段は月3千円くらいだし、一回飲みに行く金額より安いでしょ。お金で健康は買えないっていうけど、その程度の金額でうつ・骨量低下・高血圧のリスクを回避できるなら安いと夢子は考えて、喜んでピルを購入したわよね。

 むしろ値段よりも苦痛だったことがあったの。自由診療で処方箋を書いてもらうためには、エコー検査などを行うのとは別の日に改めて病院に出向かないといけないってことよ。

 いかんせん、一回行くのに会社をお休みしないといけないでしょう? 診察の日と処方の日が別だと、お休みをいただく日も倍になってしまうのよ。そのころ夢子は3カ月ごとにエコー検査をするようにいわれていたから、それだけで年に4回、半休をお願いしていたの。その4回にプラスして、薬をもらうだけの半休を年に数回取る……これがいちばんツラかったのよ。

 実際やってみて痛感したことだけど、当時勤めていた会社では、たとえ半休でも年に4回以上取るのはほぼ不可能だったわ。いつお休みもらおうかな?と考えるだけでも心理的に負担だったし、実際に半休をビクビクしながらお願いするのもストレスだったわ。それに数カ月に一度って、あっという間にめぐってくるのよね。

 アメリカの病院ではさくっと処方されそうだったピルだけど、ほんの10年前の日本では、処方されるまでにこんなに長い道のりがあったのよね。

ピルにまつわる都市伝説

 ピルは長年、日本では解禁すらされていなかったから、「自分が子宮内膜症の治療を受けることになったいま、ピルが解禁されていてほんとうにラッキー!」と夢子は感謝の念でいっぱいだったけどね(※日本で低用量ピルが避妊薬として承認されたのは1999年。世界に30年遅れて、ようやくの認可だった)。

 つまり日本にはわりと最近まで副作用の多い、古いタイプの高・中容量ピルしかなかったわけ。そのせいで「ピルは太る」「ピルは吐き気がする」「時間厳守で飲まなきゃいけないから面倒」などの都市伝説が、いまでも根強いんでしょうね。

 これを読んでる姉妹にいいたいんだけど、お母さん世代の人に「ピルは副作用が強くて怖いからやめなさい」なんていわれても、真に受けちゃダメ! 上の世代はいま主流の低用量ピルや、さらに副作用の少ない超低用量ピルのことなんて知らない人が多いんだから。

 怖いだなんてとんでもない、低用量・超低用量ピルは女性の健康によい効果をもたらすのよ。卵巣がんと子宮体がんの発生率が減り、良性卵巣嚢腫(チョコレート嚢胞含む)も減り、貧血や月経困難症が改善されるんだから。

 現に夢子はピルを服用し始めても、頭痛も吐き気もなかったし太ることもなかったわ。飲んだ直後に口のなかに後味が残ることもないし、使用感は「軽い」というのがいちばんぴったりくる言葉だったの。それまで生理前後にできがちだったニキビも出なくなったわ。薬がどんな反応を起こすかは個人差があるから一概にはいえないから、これはあくまでも夢子の個人的感想よ。

 ピルは時間厳守で服用しないとダメというのも嘘だしね。一日一回、だいたい同じ時間帯に飲めばいいだけよ。飲み忘れたら次の日の朝飲めばいいし、ほかのお薬と特に変わりないわ。

 夢子は飲み忘れることはほとんどなかったけどね。毎日痛みがある状態だったから、子宮内膜症やピルのことが頭から離れることはなかったからよ。

副作用の可能性は少ないほうがいい

 子宮内膜症は、本来は子宮にできるべき内膜が子宮じゃない場所に根を下ろしてどんどん増えちゃう病気よ。そいつらのせいで人によっては腹腔内に炎症や癒着が起きて、生活に支障が出るほどの痛みなど不具合に悩まされるの。まさに夢子がそうよ。子宮の外に広がった細胞はホルモンの変動があるたび、増えたり活動するわ。つまり子宮内膜症って、女性ホルモンの変動があるたびに悪化する病気なの。

 月経血も子宮内膜に悪く作用するそうよ。だからいまの子宮内膜症の治療は、ホルモンの変動と月経をなくして、病気が進行するスピードを遅くしよう、という考え方なの。残念ながら子宮内膜症そのものを治す治療法は、現在の医療には存在しないわ。

 リュープリンなどは体を閉経と同じ状態にして女性ホルモンの変動と月経を止めるのね。対してピルは、逆に女性ホルモンを補充することでホルモン変動と月経をお休みさせるの。どちらの薬を使っていても子宮内膜症はじわじわと悪化するけどね。

 夢子が偽閉経療法をあんなに嫌がったのは、「ピルだろうと偽閉経薬だろうと子宮内膜症は閉経まで治らない。しかも、薬を使っていても病気はゆっくり進行する。だったら副作用が少ないほうを長く使ったほうがいいに決まってんじゃん!」と考えたからよ。

最終更新:2017/03/10 20:14
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