『奇跡体験!アンビリバボー』制作の裏側! 海外事件の再現VTRは、どう作っている?
■人の運命が一番「アンビリバボー」
――番組では世界中のお話を取り扱っていらっしゃいますが、そもそもどうやってネタ集めをして、台本作りまで進めているのですか?
山森 自分たちで全世界の記事やニュースサイト、記録などをチェックしたり、現地でもリサーチしています。リサーチ勝負なので、かなり調べます。選ぶ基準はメッセージ性のあるもの。何か心に訴えかけるものがあるかどうか? です。この出来事を放送する意義があるかどうかを徹底的に議論します。構成はそれからの話です。映像的に刺激があり、興味を引くような猟奇的事件は世界中にたくさんあるのでネタ自体は豊富なのでは? と思われることがありますが、放送を見た後に、視聴者が嫌な気分になるだけの出来事は絶対に放送しません。番組を見てくれる人、そして、その出来事に関わった当人やその周囲の人など、誰か1人でも放送によって傷つくことがわかっている話は、絶対にやらないというのが僕らのポリシーです。
みんなで検討して、ネタが決定したら、全世界にいる現地のコーディネーターに連絡して、事件などの当事者本人にアポを取ってもらいます。それから、実際にディレクターが取材に行って話を聞き、それを基に台本を作っています。
なお、撮影は基本的に現地の言葉で行われますが、台本は日本語です。マネジャーとコーディネーターがいるので、本番前に台本をお渡しして、その人が翻訳し役者さんに伝えてくれます。
――実際に訪れていらっしゃるんですね。山森さんも行かれていますか?
山森 ディレクター時代には、よく行きましたよ。印象に残っているのは、中国へ行った時のことですね。医療ミスによって植物状態になってしまった奥さんがいて、旦那さんが毎日、奥さんの横で、2人の思い出のラブソングを歌い続けたら、10年以上たって、奇跡的に意識を取り戻したんです。これには、旦那さんの強い思いが感じられて、奥さんは、さぞうれしいだろうと取材へ向かった。ところが、お話を聞いたら、奥さんがわんわん泣くんです。「私がどれだけ夫に心配や苦労をかけたのかを、目覚めてわかってしまって、今、本当につらい」と。資料を読む限りは、ハッピーエンドのお話でしたが、実際にはこの方が背負っている重いものがあった。目覚めたからこそ 直面してしまった現実ですね。取材に行かなければ そこは描けなかったと思います。
有名な事件の場合、資料で書かれていることも多いので、それだけで台本を作ることもできます。けれど、生死の境をさまようような壮絶な人生を経験された方は、お会いすると、何ともないひと言に、すごい思いが隠されていたり、何かを得ることができる。そういうものを感じるだけで、構成も変わってきたりしますね。
――ちなみに、『奇跡体験!アンビリバボー』といえば、始まった当初は、心霊写真やUFO、などの内容が多かった気がするのですが、最近はあまりお見かけしないような……?
山森 当初は超常現象を多く扱っていたので、そのイメージが強いのかもしれないですね。もちろん、心霊現象やUFO、超常現象も今後扱っていきたいと思っていますが、最近は、事件ものや海外の社会問題を多く扱っています。
これからのテレビは、何かしらの教育的な一面を持たなくてはいけないと思っています。そういう意味で、見てくれた人が自分の人生を考えるきっかけとなる、または、少しでも明日の糧になるような番組作りをしていきたいと思っています。近年、番組が考えている「一番アンビリバボーなもの」というのが「人の運命」です。普通に暮らしていた人がある出会いをきっかけに、転落していくこともある。
ほんの少しのボタンの掛け違いで、悲劇にも奇跡にもなる。そんな人の運命こそが、一番「アンビリバボーだ」と思っているので、これからも自分たちなりのメッセージ性を持って、発信していきたいですね。
(上浦未来)
山森正志(やまもり・まさし)
1980年生まれ。『奇跡体験!アンビリバボー』総合演出。番組にはAD時代から携わる。番組制作会社「株式会社イースト・エンタテインメント」に所属、第一制作本部 ゼネラルディレクター。