転職先としての非営利業界・海外移住。「脱出」の先に待っているものとは?
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!
会社を辞めて、語学留学し、いずれ海外で働く。そんな転身を夢見たことがある人は、意外と多いのではないだろうか。『ブラック企業やめて上海で暮らしてみました』(原作:初田宗久、イラスト:にしかわたく/扶桑社)は、「40歳」「独身」「突出した語学力も、コネもない」状態から日本を飛び出し、上海でその夢を実現した男性の日々をコミック化した本だ。
2~3日の徹夜も当たり前のアダルト雑誌の編集部に勤めていた、自称“メタボ気味おっさん”初田氏。パワハラ上司の目を盗んで会社のトイレで眠る日々に嫌気が差し、40歳にして退職し、一念発起して中国への語学留学を決心。留学当初は苦戦するものの、1年弱で中国語版TOEICと呼ばれるテストで最高レベルの点数を獲得。上海の情報サイトの記者となり、訪中した浅田真央や福山雅治といった著名人にもインタビューする日々が始まる。
流れだけを追うと成功ずくめの華麗な転身のようだが、本作の主軸は、ほとんど勢いで中国に飛び込んだ初田氏の戸惑いと、笑いを交えたたくさんの失敗談だ。思うように伸びない語学力に涙し、日本製品の購入を頼み込んでくる図々しい中国人の同僚をあしらい、一筋縄ではいかない大家さんと渡り合い、反日デモにおびえ、タクシー運転手からは領土問題の議論を挑まれる……そんな、次々と降りかかる厄介な状況を、ユーモアに変えて振り返る。
当然、もし海外での転職に成功したとしても、そこがそのまま理想郷になるわけではない。中国では、日本とはまた違う、独特の濃い人間関係を維持しなければ、仕事をうまく進めることもできない。それでも、異なる文化に体当たりすることで獲得した「海外でゼロからハードな日々を乗り越えた」経験値は、単に「理想的な職場」を得るより貴重なものだ。
5年ほど編集記者を務めた初田氏は、部署全体の閉鎖で失業し、台湾への再留学を経て、現在は中国系企業会長の通訳アシスタントとしてアジア各国を巡っている。「40歳で留学」という選択について、あとがきでは「本当に正解だったかどうかは今でもわからない」とつづっている。けれども初田氏は、中国でのハードな日々を通して、たとえ一見「不正解」を引いても、その都度軌道修正していくしたたかさを得ているように見える。それは、先の読めない人生を存分に楽しむために、大切なスキルではないだろうか。