金正男氏暗殺事件が日本で起こったら……実行犯はどんな罪になるのか?
「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。
<今回の番組>
各局ニュース番組等
<今回の疑問>
金正男氏暗殺事件における、いたずらと犯罪の境界線
■殺人罪が成立するには「殺意」が必要
連日テレビをにぎわせている北朝鮮の金正男氏殺害事件。実行犯として逮捕された2人の容疑者については、「いたずらビデオの撮影を依頼された」との供述が報じられている。もし、同様の事件が日本で起こり、悪ふざけで殺人を犯してしまった場合、どのような罪に問われることになるだろうか? アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いた。
まず、殺人罪が成立するには、「殺意」があったことが必要になると岩沙弁護士は述べる。
「容疑者の女は男4人から『悪ふざけをしよう』と持ち掛けられ、別の女と2人で正男氏を襲ったと供述しました。女らはスプレーを吹きかけ、ハンカチで顔を10秒近く押さえたとのことです。これが、日本で起きた場合は傷害致死罪(刑法205条)が成立する可能性があり、法定刑は3年以上の有期懲役になります。殺人罪が成立するためには、(1)人を殺したこと、(2)殺意があったことが必要になりますが、2人は悪ふざけでやっており、殺意はありませんので、殺人罪は成立しません」
しかし、まったく罪に問われないかというと、そうではなく、傷害致死罪が成立するという。
「傷害致死罪は、相手に暴行を加えたこと自体は故意(わざと)であるが、殺すつもりはなかった場合に成立します。2人は死に至るとは思っていなくとも、スプレーを吹きかけたり、ハンカチで顔を押さえるという暴行行為をわざと行い、その結果、死亡させています。その場合、仮に、死に至ると思っていなかったとしても、傷害致死罪が成立します」
容疑者の2人は、使用したのがあらかじめ毒物と認識していたという報道もあるが、素手で犯行に及んでいたとしたら、死に至らしめる危険性があるとは認識していなかった可能性がある。