「専業主婦かバリキャリか」二択の時代ではない! 女性のライフプランに必要なこととは?
■正社員と同給で雇用が保障された欧米の就業形態「パート」
――海外という話が出ましたが、日本と海外の女性の働き方を比べた時に、大きな違いはありますか?
大沢 今、日本は時代の転換点に立っていると言いましたが、欧米諸国では、それを1970年代から80年代に、すでに経験しています。なので、配偶者控除の問題について、そういう変化をすでに経験している欧米の人に説明すると、向こうは女性が働いているのが当たり前の社会なので、「税金のそんなところの制限について、今ごろ議論しているんですか?」と言われます。女性がもっと稼いでいるので、海外の人から見たら、103万円の壁なんてたかが知しれた額だという認識です。
欧米諸国では、正社員の短時間勤務のことを「パート」と言います。これは正社員と同じ時給で、雇用が保障されており、ただ労働時間を短くすることができるという就業形態です。基本は熟練を積んだ女性が、子育てのために時間を使いたいという時に、労働時間の調整ができるシステムになっています。日本のように正社員と比べて時給が低かったり、雇用が保障されていなかったりすることはないんですね。
日本では、基本的な就業形態は、正社員でフルタイムの労働をするか、非正規で最低賃金に近いような時給で働くかの二択になっています。本当は働き手にとって一番ニーズがあるのではないかということで、「限定正社員」という考えがやっと登場しましたが、まだこれも始まったばかり。あまり広まっていません。働かないといけないし、子育てもしなくてはいけない女性のニーズを埋められるような、ワークライフバランス社会の実現が必要なのではと考えています。
現状は、やはり正社員で長時間働くというのがモデルになっています。それを変えて、中間層をくみ取って、男性も女性も社会の中で仕事と生活とのバランスを保てる社会を作らないといけない。ですが、そこに関する議論は十分に行われていないという印象があります。
■管理者の意識改革が特に遅れている
――女性のワークライフバランスを変えていくためには、男性の意識改革や協力が必要になると思いますが、いかがでしょうか?
大沢 その通りです。男女共同参画基本計画の第4次計画の中に男性の育児休暇の取得率を高めることで、男性の家庭参加を高めるという文言があります。しかし、現状は企業の努力義務に任されていて、ただでさえ忙しい企業が、簡単に男性の働き方を変えることは難しい。若いお父さん世代の人たちが、長時間労働を強いられているのが現状です。
アンケートを取ると、多くの男性が「子どもと、もっとコミュニケーションを取りたい」「成長を見守りたい」と言っています。しかし、家庭を優先させて転勤を断るとか、残業をしないとなれば、出世を諦めることになってしまう。実際はまだまだ男性の方が稼ぎ主なので、家族にとってよいのは頑張って働くことなのだと悩んでいる男性も多いです。
いくら男性の意識が変わっても、社会の構造を変えなければ意味がない。それができるのは国のリーダーなのに、全く力が足りていない。会社も同じです。組織の風土が長時間労働を評価するようなものであれば、いくら制度を作っても意味がない。会社の場合は、管理者の意識改革が特に遅れていると思います。日本ではこのような問題が、男性/女性の意識の問題にすり替えられがちですが、社会の構造に大きな問題があるということを認識すべきです。
ただ、夫婦の関係については、私たち個人が柔軟に考えていくことも必要になります。従来のスタイルに当てはまる家庭ももちろんあると思いますが、お母さんが家にいることだけが子どもにとっていい影響があるとは考えないで、自分たちにとっての一番いい夫婦の関係や子育ての形を探していくことが大切です。
例えば妻の方に管理職の能力があって、夫は子ども好きだし家庭のことがきっちりとできる人だというケースもあり得ますよね。どちらが昇進のスピードが早いかで育児休暇を取る方を決めるなど、「男は仕事で女は家庭」という意識を取っ払っていくことが、これからの時代は必要になると思います。
(田村はるか)
大沢真知子(おおさわ・まちこ)
シカゴ大学ヒューレット・フェロー、ミシガン大学ディアボーン校助教授、日本労働研究機構研究員、亜細亜大学助教授を経て、日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授。2013年、同大学の「現代女性キャリア研究所」所長に就任。内閣府男女共同参画会議の専門調査会、厚生労働省のパートタイム労働研究会などの委員を務める。