ペットと人のこれからを考える

猫トラブルの原因は「近隣住民同士のいさかい」――地域猫活動が浮き彫りにする、意外な問題点

2017/01/15 19:00

■猫が「好きか嫌いか」は問題ではない

――猫が嫌いな人には、地域猫活動は迷惑なものなのでしょうか。

秋本 猫が嫌いだといって排除するだけでは、解決にならないんですよね。一方で、猫好きな方に餌をやるなと言っても、隠れてあげるようになるだけ。それなら「時間と場所を決める」「しっかり掃除をする」「不妊手術を受けさせる」というルールを作る方が、早く解決すると思います。

安田 実際に、地域猫の管理に成功している地域もあるんです。猫たちを手術して、写真を撮って個体管理をしっかり行っています。その地域の団地に住む方が “見守り隊”を結成して、猫の様子をみているんです。今では、2~3カ月に1匹手術をする程度になっていて、その地域では完全にTNRが完結しています。

――活動が一段落した地域は、ほかにもあるのでしょうか?


秋本 アメリカやイギリスにも、もうTNRが終わっている地域があると聞きます。何年か前に比べたら猫の数は激減しているそうです。

安田 瀬戸内海の男木島(おぎじま)は、住民の数より多いほどの猫が暮らしている“猫の島”として有名ですが、苦情もかなり寄せられていたそうです。実際にニュースでもこの問題は取り上げられていました。そこの役所の方が、TNR活動に力を入れようと提案したのですが、その方は、もともと猫が大嫌いだったんだとか。どんどん増えていくことで、さらに嫌悪感が増して、それを「どうにか排除したい」という気持ちでいろいろ調べたらしいんです。そうして地域のボランティアさんと打ち合わせをしているうちに、「排除するだけではダメだ」と理解が深まったと言っていました。無料で猫の不妊手術が受けられるシステムを作っている「どうぶつ基金」さんに依頼をして、2日間で200匹の猫を不妊手術するという活動を行ったのですが、そのときに「本当によかった、猫が幸せに暮らしていける」っておっしゃっていました。TNR活動に協力してくださる方は、猫の好き嫌いにかかわらず、問題を理解してくださっている方なので、ありがたいと思っています。

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 「のらねこさんの手術室」が目指すのは、猫と人間の共生だという。だが、そこに行き着くために必要なのは、過度な猫の保護でも、排除でもない。トラブルの根源を見つめ、それを解消する前向きな姿勢と、さまざまな立場の人がいることを理解することだ。

 最近は、無料で不妊手術を行うなど、行政もこのTNR活動に着目しつつあり、今後「殺処分ゼロ」への取り組みに欠かせない活動となっていくのではないだろうか。


 これまで、ペット問題を通して、“人とペットが共生する”術について探ってきたが、次回はペットの老後について考えてみようと思う。ペットも長寿になり、人間と同じように、認知症を発症したり、健康状態に問題を抱え、介護が必要になったペットがたくさんいる。そうしたペットたちを、人はどのように支えていくべきなのだろうか。次回は、今や全国にある“老犬ホーム”を取材する。
(取材・文=和久井香菜子)

最終更新:2017/01/15 19:00
世界で一番美しい猫の図鑑
結局、猫よりも人同士のトラブルってかなり納得