カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」12月27日号

「婦人公論」の老後資金特集、キリギリスに優越感を抱くアリのコツコツ節約

2016/12/30 20:30

 そして、ここからが面白い。「夫の職場が牧場で、掃除用のボロ布が大量に必要なんです。そこで、使い古したタオルがあったらほしいと仲のいい友人に頼みました。すると、タオルだけじゃなく、着ない洋服もくれるようになって。そういう人たちはウチよりずっといい生活をしているけど、貯金がないと言います。給料日の少し前になると金欠になって、何か食材ない? と来たりして」。まさに現代版アリとキリギリス。いつもはタグつきの服をくれる人が、恥を忍んで食材をもらいにくる。こういうちょっとした優越感が、彼女をまた貯蓄の道へと駆り立てるのでしょうね。

■例外を例外としないために……

 さて、そんな貯蓄特集に登場する、ナレーター坂上みきのインタビュー「53歳で授かった息子のために、自分の老後は後回し」。坂上といえば10年以上に及ぶ不妊治療の末、2012年に53歳で出産したことが話題になりました。夫は一回り年下のニュージーランド人。超高齢出産ゆえの老後の不安も「夫はたいていのことはなんとかなると考えているので、『いざとなったら、僕がマグロ船に乗って稼ぐ』なんて、冗談めかして言うんです。趣味の域を超えた料理上手なので、彼ならマグロ船のシェフも務まるかもしれません(笑)」と明るく受け流す。このあっけらかんさは外国人特有のものなのか、個人由来のものなのか。

 先日台湾人の男性と結婚した福原愛の表紙インタビュー「家庭を持って、ラケットも握る。彼とならば、できそうです」も、夫に追従することが美徳だと育てられた「婦人公論」世代には考えさせられる内容です。たとえばプロポーズ。以前から台湾で家を探していたという夫(江宏傑選手)。たまたま福原が台湾に遊びに行った際、彼が見つけた物件に連れて行かれ「どう思う?」と聞かれたそう。「すごく素敵だと思う」と答えたら「これ、愛の」と鍵を手渡されて……。それは「この家の主人になっていただきたい」という意味のプロポーズだったのだとか。男性から女性に向けて「主人」という言葉がサラリと出てくるあたり、「婦人公論」世代には衝撃的なプロポーズではないでしょうか。そんな夫だからこそ、福原自身の結婚観も変わったといいます。

「私にとっての『なりたい自分』は、家庭を持って、さらにラケットも握っている、そんな姿です。以前は、そんなことは絶対不可能だと決めつけていました。私は器用ではないし、要領がいいほうでもないから、結婚したら、夢や目標はあきらめるしかないのだろう、と。実際、卓球界の女性の先輩たちはみなさん、結婚を機に引退なさっていました」

「でも、その考えは彼と出会ったことで変わりました。『愛のやりたいことを僕は全力で応援する、愛は何も変わらなくていい』おつきあいの中で彼が口にしたこの言葉を、折に触れて思い返し、どうしたら自分の好きな自分でいられるかを、考え続けています」

「そして、できれば、卓球界の後輩たちが、好きな人に巡り合い『結婚したいな』と思ったとき、『福原さんみたいなやり方もあるよね』と参考にしてもらえるような存在になれたらいいなあ、と思います」

 江選手の「何も変わらなくていい」は器の大きい言葉である一方で、相手に「自分の人生のビジョンは自分で描け」と通告するような厳しさもあるのでしょう。「福原さんみたいなやり方もあるよね」という“例外”を“原則”にできるほど、いまの社会は寛容なのか。それを阻止しているのは誰なのか。それを突き詰めない限り、“例外”は“例外”であり続けるような気がします。

(西澤千央)

最終更新:2016/12/30 20:30
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