恋愛リアリティ番組&シンプソン事件の裏側を描いた衝撃作! エミー賞の注目作をおさらい
■『Baskets』(米FXで16年1月21日に放送開始。日本未放送)
第68回エミー賞 コメディシリーズ部門「助演男優賞」受賞
幼い頃からの夢だった道化師という職に異様なまでにこだわり、文字通り命を懸けて道化師を演じるチップの厳しく悲しい日常をシニカルに描いたコメディ『Baskets』。パリの名門道化師学校に入ったものの、言葉が理解できず中退。一目惚れしたフランス人女性はグリーンカード目当てだと明言したが、「プロポーズにイエスと言ってくれた!」と大喜び。故郷はアメリカのド田舎で、帰国後は、街で唯一道化師を雇ってくれるロデオ競技会場で暴れ馬に蹴られる低賃金の職に就く。しかし、あまりにも低賃金すぎて、母親や、職業専門校を経営する横柄な性格の双子の兄デールに頼るハメになる。
母親は愛情深い女性だが、チップにとっては「自分はいつも母親の期待を裏切ってしまうから」と苦手な存在。威張り散らす双子の兄と、母親ご自慢の血がつながっていない優秀な弟たちにはイライラしっぱなしだ。グリーンカード目当ての妻は彼と一緒に暮らすことを拒否するが、それでもチップは彼女を愛し続ける。人を笑わせる道化師という職を選んだ彼だが、性格は暗く、短気で世間に不満ばかり持っているため友人はいない。唯一の友人は、バイクで事故を起こしたときに知り合った、風変わりな女性保険調査員のマーサだ。
同作品のクリエーターは、数多くのコメディを手がけ、エミー賞ノミネート常連として有名なルイ・C・K。双子のチップ&デールを演じるのは、映画『ハングオーバー!』シリーズで知られるザック・ガリフィアナキスである。エミーでコメディシリーズ部門助演男優賞を獲得したルーイ・アンダーソンは、女装をして母親役を熱演。友人のマーサを演じるのはマーサ・ケリーで、3人ともスタンドアップ・コメディアンとしてキャリアをスタートさせた生粋のコメディアンだ。どんな滑稽な役にもなりきり、見事に演じることができる彼らの作品とあり、『Baskets』は放送開始とともに批評家から高い評価を得た。
ザック自身が「あまりにも変わっている、これまでになかったタイプのコメディ」だと説明しているように、『Baskets』はコメディなのに悲愴感漂う作品だ。物語は「お先真っ暗で、夢も希望もないチップ」を中心に、真面目にゆるく進んでいく。そんな中に、ちょこちょことパンチが効いた笑いを入れてくるのだ。それも大真面目に入れてくるので、見ている方は意表をつかれ、大笑いしてしまう。特に母親役のルーイが繰り広げる笑いは絶妙すぎると大絶賛されている。
あこがれのパリで暮らしたいのに現実に住んでいるのはアメリカの田舎町、一流の道化師になりたいのに現実は低賃金のピエロ、美しいフランス人女性を愛しているのに現実的に手に届きそうなのはダサくてさえないマーサ、母親を喜ばせたいのに、母親にとっての自慢の息子は忙しすぎてめったに帰ってこない養子の弟たち。残酷な「理想と現実」をテーマに、これでもかというほどのシニカルな笑いを詰め込んだ『Baskets』はエピソードが進むにつれ、深みが増してくる作品でもある。長続きしそうなドラマでもあるので、今後、日本で放送されることをぜひ期待したい。