『黒い十人の女』の妻が9人の愛人に慰謝料を請求したら、いくらもらえる?
「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。
〈今回のドラマ〉
『黒い十人の女』(日本テレビ系・木曜午後11時59分~)
■妻が9人の愛人に慰謝料請求したら?
船越英一郎が主演を務める連続ドラマ『黒い十人の女』。市川崑が監督した1961年公開の同名映画を原作に、大胆なアレンジを加えた脚本をバカリズムが担当しており、9人の女と不倫しているドラマプロデューサー・風松吉(船越)が、妻と愛人たちに殺害を共謀されるという奇妙なストーリーが展開される。
今年はなにかと不倫ばやりだが、仮に松吉の妻が9人の愛人たちを訴えるとしたら、どうすればよいか? また、慰謝料はいくらくらいもらえるのか? アディーレ法律事務所の鳴海裕子弁護士に聞いた。
まず、愛人に浮気の慰謝料を請求する場合に必要なのは証拠だという。
「浮気の慰謝料を請求する場合、請求したい人が証拠集めをし、浮気があったことを証明していく必要があります(立証責任)。
浮気とは一般的には『既婚者であることを知りながら』『一方の配偶者と肉体関係を持つ』ことです。そのため、ラブホテルに入っていく写真や出てくる写真、携帯電話のカメラフォルダに残されている性交渉中の写真、LINEで『昨日はよかった』『気持ちよかった』等のやりとりをしている部分などを、日時が明確になるように証拠保全しておくと有用な証拠となります」
では、9人の愛人を訴えた場合、妻が取れる慰謝料はいくらになるのだろうか?
「不貞慰謝料の相場は『その浮気が原因で』婚姻関係が破綻してしまったといえる場合には100~300万円くらいといわれています。他方で、その浮気があっても婚姻関係に大きな影響がない場合や、確かに婚姻関係は破綻したが、『その浮気が原因』とはいえない場合には、数十万円から高くても100万円くらいまでとなります。金額の増減は、結婚年数・子どもの有無などが考慮されます。個人的には、離婚する場合でも、ほとんどが100、300万円まで行く事案は稀有であるような印象です。
すると、『黒い十人の女』の場合、同時に9人の愛人を作っているため、仮に本妻が松吉と離婚する場合でも、その浮気が原因ということまではいえないと思います。そうなると、婚姻関係破綻と各々の浮気との因果関係は弱くなり、各々の浮気相手に慰謝料を請求できる金額は小さくなってしまいます。
もっとも、たとえば、愛人A子はあくまで控えめに浮気を楽しんでいたのに対し、愛人B子は松吉を独り占めしたいがために、他の愛人と本妻を全て排除しようと画策する場合には、本妻の立場からするとB子が婚姻関係を積極的に破綻させるよう企図したとして、他の8人よりも高額の慰謝料を請求できる可能性はあります。本件は仮に9人全員に慰謝料を請求するとして、総額は450万円(50万円×9人)から900万円(100万円×9人)くらいでしょうか」
なお、慰謝料をもらうためには、必ずしも訴訟を起こさなくても、交渉でも可能だそう。
原作では、妻は松吉と離婚するが、ドラマは原作とまったく違うストーリーになっており、この先、妻や愛人たちは本当に松吉を殺すのか、ラストには驚きの展開が待っているという。いずれにしても、不倫の代償は大きいのだ。