「実際も毎日がトラブルです!」 現役の校閲ガールに聞く、プロフェッショナルな仕事の世界
■洋服と一緒で、新しいペンに換えると気分が上がる
文字の大きさを確認するスケール、ルーペなど、校閲者のお仕事道具。湯浅さん愛用のペンは広島東洋カープのロゴ入りボールペン
――とても集中力を使うお仕事だと思いますが、集中力を保つために工夫していることなどはありますか?
湯浅 気分転換につきます。やっぱり3日寝てない人とか、他の悩みで頭がいっぱいな人が校閲を担当していると、みんな不安ですよね。自分が健全でニュートラルな状態でいるようにするためには、気分転換がとても大事です。我々の手がけている本も、どこかでそうやって気分転換のきっかけとなっていればいいなと思います。
気分転換の方法は人それぞれで、自分の居場所がデスクなので、インテリア的なことに気を使う人もいますし、スターの写真を貼って気分を上げる人もいます。私も犬の写真を眠くなる時にちょうど目が合うところに貼ってあります。「こいつのためにお給料稼がなきゃ」って思うと、気合が注入されますね。
ほかにも、ペンは大事な商売道具なので、使うペンをこまめに換えたり、ずっと握っててぬるくなってきたらペンを換えるとかはしますね。お洋服と一緒で、新しいペンに換えると気分が上がります。
――プロフェッショナルな仕事をする上で、女性だからこその強みなどを感じたことはありますか?
湯浅 女性ならではということはあまりなくて、個人個人でいいところがあるという感じが強いですね。男女というよりも、それぞれの得意分野が違っていて、お互いに補い合っているというイメージです。
経験したことが活かされる場面も多くて、例えば書籍の一節に何かのスポーツやゲームやギャンブルのことが書かれていて、自分はやったことがなかったとしても、校閲部内に心得のある人がいればその人に聞いて作業をします。そういう意味では、校閲は個人プレーであり、チームプレーでもありますね。基本的にどの仕事を担当するかはスケジュールで決められているのですが、「この書籍のジャンルに関してはあの人が詳しいから教えてもらいなさい」ということも多い。あまり男女を意識せず働ける職場だと思います。
――校閲部にはどんな人が多いのでしょうか?
湯浅 趣味をいろいろ持っている人、しかも常軌を逸したハマり方をしている人が多いですね(笑)。ミリタリーオタクの人はデスクの周りに銃の本がたくさん置いてあるし、ほかにも数学の問題集を解くのが趣味の人は、休みの日にも問題集を解いているらしいです。漢字博士もいて、この人はその知識が評価されて、新潮社から出た漢字辞典の編纂に携わりました。語学の勉強が趣味の人は、今では100以上の言語を勉強しているそうです。個性的で、ハマったらとことん突き進む人が多い印象があります。
――入社して20年目とのことですが、この20年の間に校閲のやり方にも変化がありましたか?
湯浅 元々、校閲は誤字・脱字を正すというのが第一に優先される作業だったので、内容を調べて正しいかどうかをチェックする作業はオマケの部分でした。それが、パソコンのおかげで、字の正確さについては手間が以前より掛からなくなったので、その分調べ物に時間が割けるようになりました。
調べ物に関しても、以前は小説の一節で場所の記述が気になってしまった時は実際に自分で見に行ったり、地名の読み方がわからなければ観光協会に電話をしたりして確認していましたが、今ではネットで調べられるようになったのでスピードは早くなりました。ただ、ネットの情報が信頼できるものなのかの判断は難しい。しかも、調べ物を多くしていると、単純な誤植を見落としてしまうこともしばしばあるので、そのバランスがなかなか難しいなと感じます。
私たち校閲は、日本語学や言葉の専門知識を学んでいるわけではありません。そういう意味では、「素人としてのプロ」という目線を大切にやっていかなくてはいけないなと感じています。
(田村はるか)