結婚の目的はリスクヘッジ! 思想家・内田樹が説く、恋愛を語らない結婚論
結婚前の人は、したくなる。
結婚している人は、気楽になる。
そのためにこの本を書きました。
『困難な結婚』(アルテスパブリッシング)の帯には、そんなことが書かれている。著書は、今、もっとも影響力があると言われる思想家の内田樹氏。一度の離婚を経験し、18年間ひとりで娘を育て、現在は再婚している。本書には、恋愛がどうのこうのなんて、話は一切出てこない。もっともっと深い意味で、「なぜ結婚するのか?」ということが、Q&A形式で書かれている。
テーマには「こうすれば結婚できる(あるいは、あなたが結婚できない理由)」、「結婚するのはなんのためか?」「結婚式はしたほうがいい」「結婚と戸籍と姓」「結婚とは不自由なものである」「他人とうまく暮らすには」「夫婦間コミュニケーションを巡る諸問題について」「家事という<苦役>について」「結婚してからのお金の問題」「コップのふちから水をこぼさない努力――結婚を続けるには?」と、全部気になる内容が並ぶ。
なかでも、32歳、独身の私が気になったのは「結婚するのはなんのためか?」という問いかけ。正直なところ、親が離婚していることもあって、結婚が良いことだ、という印象はない。そんな私でも、なるほど! と納得できたひとつの回答がある。
「一人で生きていれば、病気になったり、失業したり、おもいがけない出来事に遭遇したときに一気に<生活の危機>に追い詰められますけれど、二人で生きていければその危機は回避できます。二人同時に入院するとか、二人同時に失業するというようなことは確率的にめったに起こりません。時期がずれていればなんとかなります。(中略)要するに、ふたりが一緒に暮らして共同体をつくるというのは、ごく実利的な安全保障であり、リスクヘッジなんです」
女も男も、自分ひとりのお金で暮らしていけるようになると、「一人暮らしは気ままで楽しいな」なんて思いが強くなる。けれど、女性の場合、出産にはリミットがあり、あからさまに体が変化していくので、いやが応でも「どうしたいんだよ!?」と、自分自身に突きつけられる。日本では結婚しないと、子どもに迷惑がかかってしまう仕組みなので、30代になると女性は、結婚しよう、結婚したい、と真剣に考える人は多い。
ところが、男性は違う。ある意味エンドレス。独身男性に話を聞くと、子どもが成人した時に、65歳ぐらいじゃないと、お金の面で大変だな、という考えはあるものの、女性ほどの迫り来る危機感はないので、現状のお金があるなしにかかわらず、結婚することで自由を奪われる、と消極的だ。それで、年頃の女性に結婚を迫られると、脱走してしまう。
とはいえ、そんな彼らでも老後は、もしも病気になったりしたら、どうしようかな……と頭のどこかでは考えているはず。その時に、内田氏の“なぜ結婚するのか?”という回答は、男に結婚を決断させる有効な理由じゃないかと思うのだ。とくに、病気になって弱っているような時には!
この本は女性だけでなく、ひょっとしたら、男性にこそ読んでほしい本かもしれない。パートナーがいる人は、これ見よがしに部屋に置いてもいい。一体どんな顔をして手に取り、どんな感想が返ってくるのか。そんなことを、ついつい試したくなる内容が詰まった1冊だ。
(上浦未来)