「なぜ不倫をしないのか?」上野千鶴子が指摘する、“理想の結婚”がはらむ矛盾点
『発情装置 新版』(岩波現代文庫)
■不倫をするのに夫の許可は必要?
今年、話題になっている不倫問題についても、同イベントのトピックとして上がった。とある参加者の「夫公認で、外に男を作りました」という発言に、会場が感嘆していると、上野さんはこれに疑問を投げかける。
「どうして夫に許可を求めるんですか? いちいち、自分の体や感情の傾きの許可を誰かから得なければいけないんですか? 身体も感情もあなた自身のものでしょう。なぜ許可がいるかといえば、結婚という契約関係の中に、性的身体の所有権が入っているからです。日本には、不倫をした本人ではなく、不倫相手に賠償請求できる権利があります。それは『自分の所有物を無断で使用された』という損害賠償請求と同じ法理なんですよね」
確かに結婚とは、「この人以外とはセックスしません」という約束でもあり、だからこそ、配偶者以外の人とセックスをしたら、それは「不倫」という“罪”になる。しかし上野さんは、
「亀山早苗さんの『人はなぜ不倫をするのか』(SBクリエイティブ)という本の一章に私が登場しました。彼女から『人はなぜ不倫をするのか?』と聞かれて、私は『人はなぜ不倫をしないのか? そっちの方が私には謎です。結婚をするから不倫になるんですよね? なんで守れない約束をするのか、私には理解できません』とお答えしました」
と、バッサリ。恐らくたいていの人は、結婚当初、不倫をしないことが「守れない約束」だとは思っておらず、結婚は「ゴール」であり、一生安泰を約束してくれる「約束」と考えているはず。この点についても、上野さんは、「人生が50年だった時代と現代は違うんです」と言及を続ける。
「19歳や20歳で出会った男と、自分たちの変化を共有し合って、成長し合っていけたらいいけれど、その成長の度合いに必ずズレが来る。今、人生は100年だからね。20代で結婚するっていうことは、あと80年、1人の男と生涯契約を結ぶってことです。こんな大胆な、無謀な人がここにいるの? よくできるね、そんな約束。これから一生、恋愛したい気持ちが起きないっていう保証は、どこにもないんですよ。人生って、何があるかわからないから面白いのに」
さらに、女たちが結婚するときに抱く、理想の男性像についても、「逆の立場になってみて」と提案し、その矛盾点を暴いていく。
「自分の生活の安全保障をしてくれて、経済力もあって、知的刺激もあって、性的満足も与えてくれて、自分に関心を持ってくれて、愛してくれる。それをたった1人(の男性)で充足できるなどという妄想を、どうやったら抱くことができるんですか? 逆のことを考えてください。自分がこれだけのことを誰かから要求されたら、その人に全部調達してあげられると、どうして思えるんですか? 私は謙虚な人間です。だからそんなこと、到底思えません」
こうした上野さんの考え方に、ハッとさせられることの連続である参加者たち。筆者自身も、普段どれだけ「結婚とは、男女とはこうあるべき」という足かせを付けたまま生きているのかを実感させられた。