「楽しすぎて、日が昇っているうちに働けない」 小豆島へ移住した独身女性ルポライターの自由な生活
■病気になったら、旦那はおろおろするだけ。頼るべきは女友達
イベントの中では、女性のお客さんから内澤さんへの人生相談が寄せられるひと幕もあった。
<30代独身で、もしも病気になったら、頼る人もおらず心配です。内澤さんが、がんになった実体験を踏まえて、どう思いますか?>
それに対し、「当時、配偶者いましたけど、でも、ほとんどいらないよ。はっきり言って、頼りにならないよ。男の人は、病気になった時、どうしていいのかわかんないと思う。特に女性の病気となると。入退院の時に付き添ってくれるぐらいのことはあるかもしれないけど、別にいても、いなくても。ほんとにつらかったら、タクシーで帰ればいいだけの話なので。だってさ、せっかく来てくれたってさ、電車で帰ったらつらいよ。ほんとだよ!」と内澤さん。
内澤さんは、以前、取材で「ナグモクリニック」を訪れ、こんな話を聞く。統計的にも、女性特有の病の場合、実の母親と旦那さんは頼りにならない、と。娘が子どもが産めない体になるとか、乳がんで乳房がなくなる、といった話をすると、娘が取り乱す前に、母親が取り乱してしまう。旦那さんもおろおろするだけ。
実際に、内澤さんもそのことを体験した。じゃあ誰が頼りになるかといえば、信頼できる女友達。まず冷静にインターネットで病院や治療方法を調べてもらったほうがいいらしく、「女性の病気に関しては、女同士の方がねぇ、わかるもん」と、最初から配偶者の看護を期待すべきではないと語る。
それならば、仕事ができなくなってしまった時の心配については、どうしたらいいか。
その答えは、明快。「貯金しとけ」。
「だって、大体はお金で解決するんじゃない? もちろん、精神的に支えてくれる人がいたほうがいい場合もあるけれど、お金があれば、心のゆとりができる。フリーランスで明日の仕事がない、みたいな不安からも抜けられる。あとは、復帰した時に仕事が来るか、来ないかは、普段の心がけ次第」
男前な答えで、ちょっとたじろぐが、それが独身女の現実だろう。
今後やってみたいことを聞かれると、「猪や鹿の肉の加工場を作りたい」と、すでに実行に移すタイミングをうかがっている様子。衛生的な基準を満たさないと、不特定多数の人に肉を食べさせる、ということがやりにくいので、初のクラウドファンディングにもチャレンジしたいそうだ。
■実はヤギのように怖がり。行動する時は、最悪の場合に備えた逃げ場を想定しておく
最後に、木村さんから、内澤さんのように軽やかに生きる秘訣を聞かれると、「ヤギのように怖がりなので、ダメだった場合のことは考えます。もしも、誰かと喧嘩して、小豆島にいられなくなった時のために、お金貯めておこうとか。日本が本当に嫌いになって、出たくなった時は外国に出るしかないとか。最悪の場合に備えた逃げ場を想定します」と意外な返事が。
「でも、なかなか外国で住みたいところが思いつかないんですけれどね。唯一すっごく素敵だなと思ったところが、イスラエルのキブツ(イスラエル特有の生活共同体)。無理やろ~みたいな。政治的に難しい国なので。走ってる間に、パレスチナ(自治区)に入っちゃうみたいな。おもしろいところなんですけどね」
内澤さんのイスラエル暮らしも興味がわくが、お話を聞いている限り、小豆島をずいぶん気に入っているよう。しばらくは、小豆島での暮らしぶりを、エッセイなどで知ることができそうだ。
東京オリンピックが終わったら、おそらく職場を失った人々が、東京から地方へどんどん出て行くだろう。4年後、東京は大きく変わるかもしれない。アラサーやアラフォーで独身で、東京でずっと暮らしたいのか、疑問を持っている人は、本書を読んでみたらいい。東京って、まだおもしろいのかな? 便利だけどね。
(上浦未来)
内澤旬子(うちざわ・じゅんこ)
1967年、神奈川県生まれ。文筆家、イラストレーター。2011年に『身体のいいなり』(朝日文庫)で講談社エッセイ賞受賞。著書に『センセイの書斎 イラストルポ「本」のある仕事場』(河出文庫)『世界屠畜紀行』(解放出版社/角川文庫)『おやじがき 絶滅危惧種中年男性図鑑』(講談社文庫)『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(岩波書店)『捨てる女』(本の雑誌社)など多数。