介護現場でセクハラが多い理由 見て見ぬ振りをされた高齢者の性
■高齢者の性を社会全体で考えていかなければいけない
しかし、それが介護の現場でセクハラとなって表れたとき、女性はどう対処すればいいのか。
「性への欲求は、押さえつけられるものではありません。人は体という器を持って生まれてきます。器はぼろぼろ傷んでくるけれど、意識はそのまま死ぬまで持ちつづけるので、頭も下半身も元気という方がいかに多いか。でも、パートナーとはもう性生活がなかったり、離・死別していたり……といった状況で、その欲求が身近な介護士さんに向かってしまうのですが、長谷川さんのお店とダブルワークしている女性たちは、そのかわし方がとても上手! 『そんなことしたら、奥さんに怒られちゃうよ』とか、誰も傷つかない応対をしますよね」(同)
「ふつうは『やめてください!』ってキツい言い方になっちゃうでしょ」(長谷川さん)
「それで体を押し返し、男性がひっくり返ってしまって事件になるケースもあります」(家田さん)
「性風俗の世界でも“本番強要”といって、口や手のサービスではなく性交渉そのものを要求されるケースがありますが、そこで突き放してしまうと、お客さんもカチンときます。『次また呼んでくれたら考えようかな~』ってかわしたり、『きょうはお口でがんばるね』とやんわり断ったり。こうした応対の仕方を、私たちお店のスタッフから女の子に教えることもあります。でも、私も風俗の世界に飛び込む前に介護の仕事をしたことがありますが、介護職ではこういう応対の仕方は一切習いませんよね」(長谷川さん)
その対処が難しいのは根っこの部分に、いまの高齢男性が生きてきた時代的背景もある。
「女性は家庭、男性は仕事という役割分担がはっきりしていた時代を経験している人たちなので、いまの男性とは女性に対する目線が違います。職場でも肩に手を回すとか、お尻をちょっとさわるとかのセクハラが、コミュニケーションの一環と思われていたぐらいですから、女性の意思を無視してさわってはいけないという感覚が薄いように見えます。これまでの性に対する姿勢や性生活が、この年齢になって表に出てくるわけですが、それは女性にも当てはまります。高齢女性にも性欲はありますが個人差が大きく、たとえば若い頃に性風俗で働いていた方などは、欲求が強く残っているようですね。朝、オムツを交換すると夜とは位置がズレていたり……。オムツをずらして何をしていたかは、想像にお任せしますが」(家田さん)
「人はまっ裸で生まれてくるんだから、死ぬときもすっぽんぽん、アソコをさらして死んでいくものではないでしょうか。オムツの世話も、デリヘルでのサービスも一緒。どちらも同じだと考えられればいいですよね。そうすると、私たちの仕事が介護の役に立つこともあると思うんです。家田さん、“介護大臣”になってもっとこうした考えを広めてください!」(長谷川さん)
「高齢者の性を見て見ぬふりするのではなく、彼らがそれを求める理由は何かということを、社会全体で考えていかなければいけないですよ。同時に、介護職の労働環境と賃金を見直し、メンタルケアもしっかりして、高い技術を身につけてもらうこと。それから、いまは介護にまつわる仕事の大半が女性によって担われていますが、力が必要な仕事なので男性のさらなる参入も求められます。男性介護士さんが増えたら、おばあちゃんたちも喜びますから(笑)」(家田さん)
(三浦ゆえ)