サイゾーウーマンカルチャーインタビューホモフォビアが生まれる背景 カルチャー 精神科医・Tomy氏インタビュー(前編) 同性愛者は守ってもらわないと命に関わる恐れがある ホモフォビアが生まれる背景 2016/08/16 15:00 インタビューセクシュアル・マイノリティ Photo by Strange de Jim from Flickr 一橋大学法科大学院に通っていた男子学生Aさん(当時25)が、2015年8月に校舎6階から転落死した。ゲイであるAさんは、同級生の男性BさんにLINEで恋愛感情を持っていることを伝えたが、それをBさんが同級生に暴露。ショックを受けたAさんは心療内科を受診していたというが、転落死した当日には学校でパニック障害の発作を起こし、学内の保健センターで休養している。 これを受けて遺族は、秘密を暴露した同級生や、Aさんの症状などを知りつつも対策を講じなかったとして大学を提訴。訴訟の第1回口頭弁論が今年8月5日、東京地裁で開かれた。 Aさんは法科大学院の同級生たちが同性愛者を「生理的に受け付けない」などと話しているのを聞いていたと報道されている。この裁判では、性的指向や性自認を暴露する行動「アウティング」が問題となっているが、Bさんをはじめとする同級生たちの「ホモフォビア(同性愛嫌悪)」がAさんを追い詰めた可能性は、はたしてゼロだといえるだろうか。 世界を見渡せば、6月12日には米国フロリダ州・オーランドの同性愛者が集まるクラブで銃乱射事件が発生。49人の死者と53人の負傷者を出した銃撃事件を起こした犯人の男はIS(イスラム国)に忠誠を誓っていたが、明らかに同性愛者をターゲットにしていたことから、根底にはホモフォビアがあったと考えられている。 では、このホモフォビアとは、どのような感情から派生したものなのだろうか。その正体を知ることは、同性愛者への偏見・差別感情を解消する一助になるはずだ。自身もゲイであることをカミングアウトしている精神科医のTomy氏に話を聞いた。 ■アメリカでは同性愛者は守ってもらわないと命に関わる恐れがある ――ホモフォビアというのは、何を契機に芽生える感情なのでしょうか? Tomy氏(以下、Tomy) まず、「フォビア」つまり「嫌悪」という現象は、おそらく宗教的なベースがあるかないかで、だいぶ違ってくると思います。もし、同性愛をはじめとする特定の指向が罪であるとされている宗教で育った場合と、そうした概念がない場合では、偏見のレベルは大きく違ってくると思います。 ――宗教が偏見を強めている可能性があるということでしょうか? Tomy たとえば、一部の宗教では、そもそも同性愛自体が犯罪であるという扱いを受けることがありますね。存在してはいけないと思っている。そうした教条を信じる人が抱くホモフォビアと、なんとなく「気持ちが悪い」とか「抵抗がある」という人のそれとでは、偏見に対しての、ある意味でいう“モチベーション”がまったく違ってくるはずです。 ――なるほど。日本でホモフォビアに端を発する重大事件をあまり聞かないのは、そうした“モチベーション”の違いがあるとも考えられますか? Tomy そうだと思います。たとえば日本の場合、ヒソヒソと陰口を言うことはあるかもしれませんが、「存在を抹消しよう」という発想までには至らないことが多いですよね。しかし、他国では「存在そのものが罪である」とか「消さなきゃならない」レベルのホモフォビアが根付いているケースもあります。 さらにいえば、アメリカでは同性愛者の人権を求める動きが活発ですが、日本の場合にはそうした動きはもともとあまりありません。というのも、アメリカでなぜそうした権利が制度化されたり法律的に認められたりする必要があるかといえば、権利を主張して守ってもらわないと、犯罪に巻き込まれるとか、殺されるかもしれないという不安が根底にあるからです。 たとえば、カリフォルニア州でカミングアウトした同性愛者として、初めて議員になったハーヴェイ・ミルクも暗殺されてしまいましたが、こうした事例にみるホモフォビアは「気持ちが悪い」というレベルを超えていて、同性愛者は守ってもらわないと命に関わる恐れがあるわけです。 ■日本は同性愛を認める文化があった ――ホモフォビアのレベルが深刻だからこそ、より強く権利を主張するという相互作用があるということですね。それでは、日本はそこまで深刻ではないと思われますか? Tomy 日本って、歴史からみても同性愛を認める文化がありましたよね。というより、あまり気にしないっていうか……「なんか気持ち悪いかもしれないけど、別にいっか」っていう。だからアングラではあるけれど、それでなんら不自由を感じなかったので当事者も何か主張をしようという流れがあまりなかったように思います。最近になって、アメリカなどで同性婚が法律によって認められてきた流れをうけて、国内でもそうした権利を認めてほしいという声があがりはじめたっていうのが現状ではないでしょうか。 ――いわゆる過渡期にあたるということでしょうか? Tomy そうですね。あと以前に比べると同性愛者たちを見かける機会が増えていますよね。たとえば私が子どもの頃は、そういう人たちは東京の新宿にしかいないと思っていたくらい。だから身近にいるという認識がなかったんです。今はメディアにもたくさん出てきているし、身近な存在であるという認識が高まってきていていますよね。その中でカミングアウトもさらっとできちゃう風土がだんだんとでき上がってきている印象です。当たり前にいる、特別じゃないという理解がだんだん増えてきたので、殺されたりとか、そうした不安感はないにせよ、やっぱり法律で認められていた方がいいんじゃないかという、緩やかな土壌の中での権利主張が出てきたんじゃないかなと思います。 (末吉陽子) (後編につづく) Tomy(トミー) 精神科病院勤務を経て、現在はクリニックに常勤医として勤務する。オカマキャラで相談に乗るブログ「ゲイの精神科医 Tomyのお悩み相談室」が注目を集めている。著書に『アンタたち治るわよ!』(講談社)『おネエ精神科医のウラ診察室』(セブン&アイ出版)など。 最終更新:2016/08/17 16:01 Amazon オネエ精神科医が教える 壊れない生き方 (メディアファクトリー新書) ゲイは特別じゃない 関連記事 自分の中の差別意識を見つめ直すために ゲイアートの巨匠が問いかける、LGBTを取り巻く社会 幻想を捨てることがスタート......ゲイと女の友情って本当に成り立つ!?教科書にLGBTが必要な理由 多様な性の理解における学校教育の重要性地方はセクシュアル・マイノリティへの偏見が強い 名古屋のLGBT成人式に苦情電話も多様な家族のかたちを受け入れるには何が必要か? 同性カップルの子育てから考える 次の記事 月9『好きな人がいること』パクリ疑惑 >