春風亭昇太は、“結婚していない”を武器にする落語家――『笑点』で見せた「ナメられ力」
羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな芸能人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今回の芸能人>
「結婚なんかするからだよ」春風亭昇太
『笑点』(日本テレビ系、7月31日)
故・渡辺淳一がたいていのことでへこたれない鈍感な力について述べた『鈍感力』(集英社)で100万部を売り上げたのが、2007年。現代はそれにプラスして、「ナメられ力」が求められているのではないかと思う。
『笑点』(日本テレビ系)の桂歌丸が、大喜利司会を引退すると発表した時、たいていの人が予想した後継者は、三游亭円楽だろう。しかし、ふたを開けてみれば、新司会は大喜利の最年少メンバー・春風亭昇太で、昇太を推薦したのは、誰であろう歌丸本人であったらしい。
「週刊ポスト」(小学館)の取材を受けた歌丸は、昇太を推薦した理由をとして「若さ」を挙げた。若い視聴者を呼び込むための判断だろうが、同番組のプロデューサーは起用の理由を「消去法」となんともナメた理由で説明した。ここで「ナメやがって、なにくそ」と奮起するのが従来の男性だろうが、昇太は「気が楽になった」と気にしている様子は感じられない。
昇太は大喜利メンバーにもナメられている。番組の途中に、メンバー同士が無駄話をはじめ、座布団を投げるという行動に出るが、昇太はそういった暴挙を本気で嫌がっているようには感じられない。「自由に話さない!」「みんな、ちゃんとしてよ!」とも叫ぶが、あまり深刻に捉えているふしもないのだ。7月31日放送の回では、「昇太が司会の座を追われる」というオチで番組が終わるが、ナメられキャラで押し通すことは、番組全体のコンセンサスのようである。
昇太の最大のナメられネタは、「独身主義者」なことである。大喜利が「ちっとも面白くない」といわれ、最大ネタは「嫁が女優の国分佐智子」である林家三平が新メンバーに加入したのも、昇太と正反対であるがゆえに、イジりやすいからだろう。
大喜利の最中、三平が「嫁と姑がケンカをしている時は、黙ってる」と、母・海老名香葉子と妻・国分佐智子の対立を思わせるネタを披露すると、昇太は「結婚なんかするからだよ!」「家庭の話を持ちこむな!」と叫び、場内に爆笑が起こった。なぜここが笑うところなのかわからないが、円楽の「もしかして、おひとりさまですか?」の発言で、さらに会場が沸いたことを考えると中高年の観客にとって、独身は見下してもいい、つまり、ナメてもいい人物に映っているということだろう。