【連載】永田町の「謎」 現役議員秘書がぶっちゃける国会ウラ情報12

選挙後に秘書たちが恐れる警察の捜査とは? 取り調べを経験したら一人前?!

2016/08/08 15:00
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Photo by Tatsuo Yamashita from Flickr

 国会議員秘書歴20年の神澤志万と申します。セクハラ、パワハラ当たり前! 映画もテレビドラマもかなわないリアルな国会とその周辺について、現役議員秘書が暴露します。

■政治活動のための名簿使用は違法ではない

 東京都知事選挙も終わり、やっと「選挙は続くよどこまでも」状態から脱して、ほっと一息の永田町です。皆さんの周りはいかがですか?

 選挙期間中は、ご自宅に「公選ハガキ」と呼ばれる候補者の支持を訴えるハガキが届いたり、電話がかかってきたり、外出すれば街頭演説や街宣車と遭遇したりと、何かと騒がしかったのではないでしょうか。

 公選ハガキには、「紹介欄」が用意されていて紹介者の名前が書いてあるので、「あー、この人の紹介なのね」と理解できると思いますが、電話は「どうして、この人は私の電話番号を知っているの?」と疑問に思うこともあるのではないでしょうか。電話での支持依頼については、昨今は「個人情報漏えいではないのか?」という声もあります。


 でも、そもそも国会議員の事務所は、個人情報保護法の適用対象外なんです。政治活動のために、既存の名簿を使用させてもらうことは違法ではないんですね。

 ある宗教団体などは、支持政党の候補者たちのために「F作戦」(Friendの頭文字)と称して、友人・知人に電話をかけまくっているとか。電話だけなら、「はいはい、わかりましたよ」と答えておけばいいと思いますが、結構しつこくて「個人演説会」へのお誘いまであるそうで、誘われる方の中には「断り方が難しい」と悩んでしまう方もいらっしゃいました。

 票の獲得に熱心なあまり、相手の都合を考える余裕がなくなってしまうんでしょうね。これからしばらくは大規模な選挙はないと思いますので、皆さんも、そのような悩みからは解放されると思いますよ。

■秘書たちが恐れる、選挙違反の捜査

 選挙が終わった後に秘書たちが最も恐れるのは、公職選挙法違反についての警察の捜査です。特に落選した陣営が狙われるのですが、これは当選者の逮捕は、議員特権の関係もあり、非常に慎重に捜査を進めなくてはならず、いろいろと面倒くさいからではないでしょうか。


 当落が確定した翌朝に、任意での同行を求めて、自宅まで刑事が押しかけてきます。どうやら各県警には「公選法違反事案で、○件摘発しろ」というノルマがあるらしいのです。

 公選法はとても複雑で、捜査当局の「さじ加減」でどうとでも解釈できる部分も多く、捜査も「やりたい放題」の印象が否めません。正直、ノルマ達成のために、いちゃもんとしか思えないことを何度も聞かれるのでうんざりします。「選挙違反の取り調べを経験して、やっと一人前」などと言われる永田町ですが、そんな経験、誰もしたくはありませんよね。

 たとえば、こんな例があります。選挙の翌朝、ある陣営の学生ボランティアが一斉に任意で連れて行かれました。しかも連れて行かれたのは、家族と住んでいる学生ばかり。一人暮らしの学生は、熟睡していて刑事のピンポンに気付かず無事だったとか(笑)。

 その話を聞いた時は、「えー!? 任意の取り調べなのに、自分たちの息子や娘を、簡単に警察に差し出しちゃうんだ!」と驚きました。「任意」なら応じなくてもいいんですよ。でも、朝の7時に警察官が自宅にやってきたら、保護者も動揺して、冷静な判断ができなかったのかもしれませんね。そして、この案件は、特に何もなく終わりました。他の陣営から逮捕者が出たので、突然捜査が打ち切られたのです。ただの、警察の嫌がらせだったのです(怒)。

■自民党大阪府連からの強い圧力?

 「嫌がらせ」といえば、今回もありました。7月の参議院選挙後、大阪府警は、おおさか維新の会の比例候補者の陣営の秘書たち3名を選挙の翌日に逮捕、家宅捜索を行いました。

 容疑は、「報酬を約束したスタッフにビラまきをさせた」という内容でした。公選法で定める「アルバイト代をもらう予定の人は、ビラまきなど有権者に投票を呼び掛ける行動をしてはいけない」という決まりを破った容疑です。

 一般的な公選法違反の捜査の場合、まずは任意の取り調べをスタッフに行い、「外堀」を埋めてから、「秘書の取り調べ」→「逮捕」という流れになります。しかも、この案件はまだアルバイト代が支払われておらず、「報酬を約束した」証拠は、帳簿上の金銭の動きや振込の記録ではなく、「アルバイト代をもらう予定の人」からのお話だけなのです。もしかしたら、「最初は労務者(アルバイト代金をもらってもいい人)としてお願いしたけど、候補者を当選させたくて、結局はボランティアとしてビラまきなどを頑張ってもらいました」ということだったかもしれません。そうだとしたら、セーフな話です。それに、この程度のことと書くと誤解を招くかもしれませんが、このような案件で逮捕者が出てしまうと、ますます選挙をボランティアで手伝ってくれる人がいなくなってしまうという懸念も膨らんでしまいます。

 今回、府警が逮捕に踏み切ったというのは、自民党大阪府連からの強い圧力があったとしか思えません。おおさか維新の会が大阪府内では圧倒的に強かったので、それに対しての逆恨みではないでしょうか。とばっちりで逮捕、家宅捜索を受けた陣営は本当にお気の毒です。ただでさえ、落選のショックで疲労困憊状態なのに、このようにして精神的にも追い詰められてしまうのですから。永田町論理では、だからこそ、勝たなければらないのが選挙という「戦争」なのです。

 神澤も、だいぶ前に、ある件で取り調べを受けた経験者です。そういう意味では、「一人前」の秘書なのかもしれませんが、二度と経験したくないというのが本音。もう少し選挙活動の範囲を広げ、ビラまきなどを熱心に手伝ってくださる方たちへ、報酬を支払ってもいいようにしてほしいと切に願う永田町秘書団です。

 政治家や秘書の逮捕については、また書かせてくださいね。

最終更新:2016/08/08 15:00
改正公職選挙法の手引
想像以上にドロドロした世界のようで……