カルチャー
『悪母』著者インタビュー

同僚・ママ友・姉妹、怖いけど面白い“女の友情”――嫉妬も独占欲も女同士で生まれる

2016/07/31 19:00
『悪母』(実業之日本社)

 身近にいそうな嫌な女や、女たちが集団になった時に起こり得る現象や彼女たちの心理について、サスペンスやホラー要素を交えて表現している、小説家の春口裕子氏。これまでに、見栄を張り合う女たちのサガを浮き彫りにした『女優』(幻冬舎文庫)や、女性社会のチクチク感を掬った『イジ女(め)』(双葉文庫)などを発表している。

 そんな春口氏がこのたび、出産や育児を経て6年振りに執筆した作品『悪母(あくぼ)』(実業之日本社)を刊行。一人娘の真央を持つ奈江を主人公に、真央が通う幼稚園や小学校で出会う母親たちと、彼女たちによって奈江の身に降りかかる出来事などをリアルに描き出している。

 奈江が良き相談相手として信頼している年上の佐和子や、奈江との間に強い友情関係があることを妄信する広美、自分の主張を通すために子どもを利用する貴里子、身なりや体面には無頓着だが正義感が強いきららなど、それぞれに人格や思惑が異なる母親たち。子どもや夫も登場するが、ここに描かれるのは奈江と彼女を取り巻く女たちのめまぐるしい関係だ。今回は春口氏に、女について書き続ける理由や、女の恐ろしさと面白さについて聞いた。

■姉妹という女の最小単位が嫉妬を生んだ

――春口さんの作品には、これまでも女のジメジメとした怖さを描いたものが多いのですが、今回の『悪母』のアイディアや構想はどういったところからきているのでしょうか。

春口裕子氏(以下、春口) 主人公の奈江の性格については、自分自身に対するイライラを重ねた部分があります。要領が悪いところとか、影響されやすいところとか。そういう、自分の中の嫌な部分やダメな部分を核にして、それを大きく膨らませていった感じです。

 連載当初(「月刊ジェイ・ノベル」の連載を元に単行本化)は子どもがまだ小さくて、執筆や取材にあまり時間が割けなかったこともあって、身近なママ友の世界を土台に選びましたが、実体験や知人がモデルになっているということはありません。作中で起こるトラブルの中にはSNS絡みのものもありますが、私自身はガラケーでSNSもやっていないので、身内や友達に教えてもらいながら書きました。お受験のシーンに関しては、お受験入門本を手に取るところから始めて、近隣の塾事情を調べたり、ネットの掲示板を覗いたり。材料だけ揃えて、あとはひたすら妄想するわけですが、平凡で臆病、かつ時代に遅れた一主婦の私は、「こんなことになったらどうしよう」と怯えながら書いていました。

――『悪母』は、普段見てるようで見えていない人間関係の、表と裏の怖さがあります。そうしたことを妄想してしまうというのは、昔からですか?

春口 そうですね。私自身は10代の頃から友達付き合いが苦手で悩むことが多く、今でも「もうちょっとうまくできないかな」と思う時が多々あります。昔から、言葉の根っこを探るようなところがあって、例えば笑顔で「ありがとう」と言われても、その言葉がどこから来ているのか、裏に何かあるのではないかと、つい考えてしまうんです。

 自分の言動についてもクヨクヨしがちで、自分のちょっとした一言が、誰かを傷つけているのではないか、怒らせているのではないかと考えてしまう。布団に入って「さあ寝よう」という時に思い出して、怖い方向に妄想が膨らんで、寝られなくなったりしています。実際どうなのか――誰かを傷つけたり怒らせたりしているのかどうか、実情がわからないままに延々と、1人で最悪の展開を怖がって苦しむ、超ネガティブ思考なんです。 

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