「婦人公論」の家計特集でつるの剛士が自慢げに話す、「遊ぶ夫と倹約する妻」の旧態依然とした価値観
おそらく向こう3年の生活費は、その通帳の中に納めてあるんだろうな……と思いながら暗澹たる気持ちで読みました。しかし、夫の新しい趣味=新しい仕事につながると発想する妻も、なかなか恐怖をかきたてるものがありますな。
■お金を使わされているバブル世代と、お金の使い道を考える不景気育ち世代
さて、こちらも同特集内ながらまた一味違ったインタビュー「羽田圭介 芥川賞を取ってテレビに出ても、お金の使い方は変わりません」。ピース・又吉直樹と芥川賞同時受賞というハンデを逆手に取り、メディアに露出しまくっていた羽田。自著がプリントされたTシャツを着てテレビに出るなど、世間が抱く「作家先生」のイメージを次々に打ち砕いてきました。このインタビューも一般人がうかがい知れない作家先生の懐事情がちらちらと垣間見えます。
まずはテレビのお仕事について。「例年の芥川賞作の発行部数って、平均すると6万部くらいなのですが、僕の本は21万部はけた」とテレビの力を認めながら、「ただ、20万部に近づいた頃に気づいちゃったんです。一定ラインを超えると、テレビに出たからといって、それが部数には跳ね返らなくなる、ということを」と冷静に分析。しかし「今は新聞も雑誌もたいして読まれていないから、小説の宣伝を活字媒体でやってもほとんど意味がない。活字以外の媒体に出ないと売れません」と、今後も宣伝場所としてテレビを確保していきたいと語ります。
食事は自炊、服はユニクロ、車もいらない……まさに2000年代の若者といった体の羽田ですが、そのことには特に窮屈さを感じていない様子。お金に対する期待がものすごく薄いという印象です。同性代がネットで拾った音楽、映画を漁って「その作品を見た、聴いた、と思っている。その貧乏くささに比べたら、後先考えずにお金をじゃんじゃん使うバブル世代のほうが断然素敵に思えます」としながらも、「僕にとってお金は“可能性”にすぎない。選択肢を増やすために、有効活用するもの。お金を使うことで面倒くささを避けられるのなら、それで済ませたいという程度です」。
表現が正しいかわかりませんが、お金とは薬物のようなもので、パ~っと使った人にしかその快感はわからないのかもしれません。それを知らずに育った世代にとっては「面倒をさける」ためのツールにしか過ぎない。向こう3年の生活費を貯めないと、これからの厳しい経済状況は乗り切っていけないとする特集と、同じようで明らかに違う若者世代のこうした感覚。自分の結婚や育児までが「面倒くさい」とされる時代は着実に近づいているのだと感じた次第です。
(西澤千央)