「痴女AVは男と女で作り上げた」――男性向け／女性向けに分断された、エロのこれから

『痴女の誕生 アダルトメディアは女性をどう描いてきたのか』（太田出版）

――ネットで簡単にAVが見られるようになって、女優を見る視聴者側の目が肥えてきたというのはありますか？

安田　そもそもAVって批評しやすいんですよ。エロに関しては多くの人が、「自分が正しい」と思っているんです。また男性は、男優への嫉妬心もある。これが、ものすごくイケメンな男優だと諦めがつくけど、自分と似ているようなおっさん男優だと余計に嫌がります。同じように、女優が自分よりブスだったり、おなかが少し出ていたりすると、厳しい目を持つ女性も多いんですよ。AVへの照れもあるのかもしれませんが、「え～、なんであんな子がAV女優なの？」と粗探しをする感じ。そういう点は、男女で似ている部分かなと思います。

■男の「責められたい願望」と女の「責めたい願望」が合致した“痴女”

――現在AV業界で、ブームが起こりにくくなっているとのことですが、『痴女の誕生』では、さまざまなジャンルのAVが、どのように生まれたのか詳細につづられています。本書を執筆された経緯や構想を教えてください。

安田　数年前にAV雑誌で、毎月「ギャル」や「熟女」など1つのテーマについて掘り下げていた連載がベースになっています。その時に、それぞれの属性の歴史＝男の趣味の変遷だと気がついて、すごく面白かったんです。アダルトメディアは、純粋に男が好きなものが反映されてきました。AVは一部で、作品性によって高く評価されるとは言っても、「売れるか売れないか」がとてもシビアです。作品、女優、ジャンルなど、それを求める男が多いものだけが売れていく。本書では、女性論やジェンダー論はカットし、アダルトメディアで映し出されてきた女性、つまり男が性的に望んできた女性の歴史について書きました。

――その中でも、痴女の誕生経緯については驚きました。

安田　現在のAVにおける痴女像は、90年代初頭に性感マッサージ店で働いていた風俗嬢たちが、サービス向上のために切磋琢磨して生み出していったプレイがもとになっています。そこに女性誌のセックス特集などの影響で、「女性がセックスに積極的になっていった」という時代背景も加わり、ジャンルとして確立されていきました。痴女とは、“責められたい”男性が都合良く作ったものではなく、実は女性たちが主体的に作り上げていったものだと、本書に書いています。

　ですが、実際には男と女の両者によって作られたものだと考えているんです。潜在的には、多くの男性の中に「女性に責められたい」という欲望があったけれど、「セックスは男が責めて女が感じるもの」といった価値観があった時代においては、大きな声で言えなかった。それが風俗を発端としながらも、女性側からも広く、「男性を責めたい、男性が悦ぶ様子に興奮する」という声が発せられるようになっていった。90年代に、AV業界で痴女が定着していったのは、そうした男女双方によって、一方的なセックスと性の在り方が転換しつつあったからなんですね。