BLが提示する、現実よりも寛容な社会――『溝口彰子×山本文子のBL進化論ナイト』レポート
BL(ボーイズラブ)を読むとき、読者は「攻め(セックスにおいて突っ込む側)」であり「受け(突っ込まれる側)」でもあり、物語の外側に立つ「神」でもある――BLの歴史と変遷を紐解いた評論『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』が発行され1年。ニフティが運営するイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」にて、著者の溝口彰子氏と、山本文子氏によるトークイベント『溝口彰子×山本文子のBL進化論ナイト』が開催された。BL進化論の「進化」とは何か、BLはどう変遷していったのかレポートしたい。
■現実よりも寛容な社会が、作者の想像力によってもたらされたジャンル
娯楽でありながら、“社会派”ジャンルであるBLは20世紀最大の発明と話す溝口氏。社会派、とするのは現代日本の男女観よりもずっと進んだ、寛容な社会が一部のBL作品群によって築かれ進化してきたからだ。
著書の中では、一例として、男女の性別を問わず医療技術によって子どもを持つことのできる(そのため「親」は男女だけでなく、男同士、女同士の組み合わせがある)世界の中で物語が進む漫画『SEX PISTOLS』(リブレ出版、寿たらこ)が挙げられ、既存のジェンダー制度や伝統的な家族観に依らない「家族」を考えるきっかけになると考察している。
小説『推定恋愛』(大洋図書、たけうちりうと)では、ゲイの青年、香山が恋人である男性亡き後、その娘と息子を育てている。ゲイではない義理の息子は年頃で、ゲイ向けのエロ本を見せられたときに気持ち悪いとは思うものの、一方で、ゲイである義理の父親の香山のことを慕う、リアリティある感情の両立が描かれている。作者の丁寧な想像力によって、「実現可能に見えるほど現実の状況に接続していつつ、しかし現実よりは同性愛者尊重の方向に進んだ(本書より)」、現実を凌駕する世界を提示している作品がすでに多く発表されているのだ。
イベントでは世間のBLに対する目線も変わってきたと話す両氏。腐女子という言葉が注目されだした2002年頃はテレビ番組で「引きこもりの腐女子に密着」といったキワモノ扱いも多かったという。しかしBLの認知度が増し、溝口氏がゲスト参加した2016年6月に放映されたNHK『指原(さし)ペディア』の「BLを検索せよ!」の回では、製作サイドがBLを丁寧に紹介しようとしているのが伝わったと山本氏は話す。雑誌『美術手帖』でも2014年にBL特集が組まれるなど、最近10年で、ここまで立ち位置の変わった日本の文化ジャンルはそうないだろう。
一方で、BLがマス的な注目を集めるようになり、市場規模が、経済効果が、と騒がれるようになってはいるものの、むしろ商業BL界は現在落ち着いてしまい、特に小説では新人が出づらい状況にあると両氏は話す。マス的な興味関心のピークと実態のピークにはタイムラグがつきものだが、BLでも同現象が起こっていることは興味深い。