年上女が小娘に負けるのは「若さ」ではない――『ベスト・フレンズ・ウェディング』に見る解
◎元恋人の婚約者と張り合う年増女
料理研究家として活躍中のジュリアン(ジュリア・ロバーツ)の元に、昔の恋人で長年の友人マイケル(ダーモット・マルロニー)から久々の連絡が来る。「28歳まで互いが独身でいたら結婚しよう」という昔の約束を思い出したジュリアンは、さあ来たとばかりにワクワクするが、それは彼が結婚するという知らせだった。
相手は20歳の大学生で、大リーグのチームと出版社を持つ富豪の娘キム(キャメロン・ディアス)。シカゴでの結婚式まであと4日。ショックを受けたジュリアンは、「4日で式を取り消させる」と息巻き、シカゴへ。本心を読まれないようクールを装い、表向きはマイケルとキムを祝福しつつも、何とかして2人を別れさせ、マイケルの気持ちを自分に向けようと、あの手この手で画策する。
そして、それらの企みはことごとく裏目に出て、マイケルとキムの仲をより一層深める結果となる。
キムより7歳年上とはいえ、美しく魅力的で人生経験もキャリアもあるジュリアン。若くして仕事で成功し、かつての恋人とも長年良好な関係を保ってきたという事実に、ジュリアンが外交的でフレンドリーで義理堅い「犬の女」であることが表われている。猫のように気紛れで我が侭だったら、そういう生き方にはならない。そんな彼女を浅ましい行動に駆り立てているのは、まずプライドだ。
マイケルとはかつて恋仲で、その後9年も親友として付き合ってきたという自負と自信。彼とはさまざまな思い出を共有し、かけがえのない時間を過ごしてきた。彼のことは私が一番知っている。その私を差し置いて、どうして交際期間の短い女を選ぶのか。あっちはただ若いってだけじゃないの。自分のプライドを守り、相手と張り合うことに必死で、この際だからマイケルに素直に気持ちを打ち明けるという発想が、ジュリアンにはない。
ジュリアンから見れば、キムはスタイルが良くて可愛いけれど、感情表現の大袈裟な、無知で無邪気なミーハー娘だ。結婚を理由に大学を中途退学するのも不可解だし、全米のあちこちに飛ぶ夫の取材先にべったりついていくのも理解できない。職業人として自立し頑張ってきた自分とは、あまりにもタイプが違いすぎる。だから、マイケルがキムの魅力を「人前で抱きしめても嫌がらない」「『いつも愛してると言って』と言うんだ」などと説明するのも、かなり不快。
自分にはできない、できたとしてもやりたくないことを、小娘が軽々とやってのけ、それによって男に愛されている。それも自分の一番好きな、自分をよく理解してくれているはずの男に。年上の女にとって、こんなに気持ちを挫かれることはないだろう。
◎言い訳をしない一途で愛される若い女
一方、キムから見れば、ジュリアンは明らかに脅威である。マイケルから何度も聞かされてきた、とても素晴らしい女性。きっと私にないものをたくさん持っているんだろうな。私なんかが到底太刀打ちできる相手じゃないだろうな。それより、彼らの中に恋愛感情はもう皆無なのかしら。2人の間には、私にはわかならい微妙な感情の機微もあるはず。万一、焼け木杭に火がついたらどうしよう……。
だからキムは会って早々ジュリアンに、ブライズメイド(花嫁のサポート役)になってくれと頼んだのだ。最愛の人の親友である最強の相手は、早めに味方につけておいた方が安心。過剰に思えるほどのキムの人懐こさは、犬がシッポを振りまくり、おなかを見せて「敵意はないよ!」と示しているのと同じで、手強い年上の女への精一杯の防衛策なのだ。
さらにキムは、ジュリアンにはない美点を持っていた。嫌いなカラオケバーで歌わされるはめになれば、恥ずかしいのを堪えて音痴全開で声を張り上げ、父親にマイケルの仕事のポストを打診したことで、プライドを傷つけマイケルの怒りを買えば、泣いて謝る。いずれもジュリアンの画策にはまったことによる失敗だが、彼女は一切言い訳をしない。その結果、彼女の素直さ、一途さという“愛されポイント”が浮かび上がってくる。