カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」6月28日号

「婦人公論」の“新恋人”が誕生か!? 生きる高齢者福祉・氷川きよしを脅かす、綾野剛の「女性論」

2016/06/22 16:00

■みんなに面倒くさいと思われたい男

 夢と幸せについて考えるインタビューの後は、デザートにはちょっと濃厚すぎる、綾野剛のインタビュー「役柄にも、女性に対しても、ブレない僕のポリシー」をお届けします。タイトルもすごいですが、写真もすごい。おそらく全国民が抱いている綾野剛のイメージにほんのちょっぴりの悪意がプラスされた、陰影あるショットとなっています。

「映画であれドラマであれ、台本に描かれた世界や、僕たちがつくっている作品はあくまで虚構です。でも、『用意スタート』から『カット』まで、その間だけは本当のことが起こっている。(中略)芝居をしている瞬間をいかに生ききるか――ということに悪戦苦闘しているのが、僕の毎日です」
「あくまでも主役は役柄。綾野剛は裏方ですから、自分の考えとか、役柄を客観的に見てしまうまなざしなどは排除しなくてはなりません」

 冒頭から役者論が止まりません。そう、写真だけでなくインタビューも「みんなが思う綾野剛」を、綾野自身が無意識にモノマネしているようなサービス精神を感じます。もうすぐ公開となる映画の宣伝ではありますが、その役柄について語るときも、インタビュアーでも読者でもなく、自分に向けて言葉を発するのです。たとえば「刑事の身でありながら犯罪に次々に手を染めていく。でもそこに何の葛藤もなかったし、何も怖くなかった。自分のやっていること、自分の属する組織がやっていることは、犯罪をなくし、日本という国をよくするために大切なことだ、と……」。この一文の下に、顎に手をやり、眉間にしわを寄せた横顔写真があるわけです。最高。

 しかしそういった「どうしようもなく綾野剛な自分」はご本人も自覚しているようで、「周りにいる人にしてみれば、僕は相当面倒くさいヤツかもしれませんね。『婦人公論』の読者は、僕より年齢が上の女性ですよね?(中略)僕は共演者が60代の女性であっても、70代の女性であっても、お姉さんとかお母さんという感覚をもたないようにしています。つまり、どんな方に対しても、一人の女性として接するということ」「たとえば、うちの祖母が階段を下りるときには、サッと手を貸します。これ、おばあちゃんだから、ではなくて、女性だから」。きました、遂にきました。「婦人公論」三種の神器の1つ、生きる高齢者福祉・氷川きよしを脅かす存在が! 氷川の伝家の宝刀「おばあちゃんっ子だった僕」ではなく、「おばあちゃんじゃない、女性だから」という新兵器で乗り込んできた綾野。「婦人公論」の“恋人”枠にも世代交代の波が……。

 それに引き換え、今号に掲載されている西島秀俊インタビューのつまらなさ。「リフレッシュの方法は映画を観たり、落語を聴いたりでしょうか」じゃないですよ。ちっとは綾野の身を削るようなサービス精神を見習ってほしいものです。
(西澤千央)

最終更新:2016/06/22 16:00
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