コラム
[連載]悪女の履歴書

恋人の遺体と45日間生活、交際5年の果てに女が犯した「ラストダンス殺人事件」

2016/06/19 21:00

 源一郎は、一葉と常に一緒にいることを求めた。毎朝車で実家に住んでいた一葉を迎えに行き、それだけではもの足らず、自分と一緒に授業を受けさせるため、1年だった一葉を自分と同じ4年の授業に連れていったという。もちろん帰りも実家まで送り届ける。一葉は一時期喫茶店でアルバイトを始めるが、源一郎はその喫茶店に通いつめ、送迎もこなした。

 そして源一郎は一葉について、友人たちに自慢そうにこう言っていたという。

「一葉は育てればいい女になる」「俺が理想の女に仕立てる」

 常に恋人を自分の手元に置き支配し、調教までしようとする源一郎。何とも歪んだ欲望だが、実際、源一郎はそれを実践すべく一葉にさまざまなことを命じていた。

 自らの無頼ぶりをアピールするためかビールをラッパ飲みしながら校内を一緒に歩かせ、マーガレットの花を口にくわえさせて友人宅を訪問させる。セックスも自分の首を絞めさせるなどさまざまな行為を試し調教していった。読書に関してもいちいち指図し、主に哲学や政治などの本を読ませたという。

 一葉も当初、それに従順に従い、源一郎により一層心酔していく。その様子は周囲から“教祖さまと信者”といった関係だと揶揄されたほどだ。こうして源一郎は絶対権力者として一葉に君臨していった。

◎「言っていることが矛盾する」男に疑問を覚える一葉

 源一郎はその後も一葉の行動を全て監視し、誰と何をしたのかなど詳細に報告させるようになっていく。

 まさに狂気としか思えない2人の関係。当時は概念すらなかったが、これは今で言う “モラハラ”であり“マインドコントロール”“精神的DV”さらに“共依存”ではないのか。実際、源一郎はこんなことを一葉に囁いていたという。

「君の心の隅々、身体の隅々、暮らしの隅々、過去の隅々まで全部知りたい。どんなことでもいいから話してくれ。全部この僕が引き受けるから」

 まるで佐野史郎演じる恐怖の冬彦さんドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系、92年)を彷彿とさせる“狂気”だが、もちろんそんな異常な関係は長く続かなかった。

 そのきっかけとなった1つの出来事がある。大学2年になった一葉は、映研の自主映画で主演を務めることになった。すると源一郎は大学を卒業したにもかかわらず、撮影現場に頻繁に姿を現し、脚本にあった一葉のキスシーンの削除を求めてきた。もちろんその理由は嫉妬だ。

 20代の男女にとって、これは普通なら当然かもしれないが、一葉は初めて源一郎に反発した。それはこれまでの源一郎の言動に理由がある。

 源一郎は恋人である一葉の行動を束縛しておきながら、一方で「女性も自立すべき」というウーマンリブの立場に立ち、嫉妬などの感情で男が女を縛るのはナンセンスであるなどと主張していたからだ。

「言っていることが矛盾する。そんな男だったの」

 一葉が、源一郎の矛盾に初めて気づいた瞬間だった。結果的に一葉は源一郎の強固な反対を押し切りキスシーンに臨んでいる。

 この一件で、強烈な束縛と同時に矛盾した源一郎の言動に疑問を覚えた一葉は、何度も源一郎と距離を置こうとした。しかしその都度、源一郎は執拗なまでの理屈で拒否し、2人の関係は短期間の別離はあったものの継続的に続いていく。

(後編につづく)

最終更新:2019/05/21 18:51
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