カルチャー
映画『さとにきたらええやん』監督インタビュー

「この子たち最高でしょ?」釜ヶ崎、子どもたちの“しんどさ”を包む「こどもの里」の姿

2016/05/28 19:00

――子どもたちが夜に釜ヶ崎の街を見まわる「夜回り」にはすごく驚きました。ホームレスの方に声をかけたりするのは、大人でも勇気が必要ですよね。それを子どもが、しかも夜となると危険も伴うと思ったのですが。

重江 それが危険じゃないんですよ。ホームレスの方たちは、子どもが声をかけると喜んでくれる方が多いです。たまに「子どもにこんなことさせるなよ」と言う方もいますが、それは仕方ないですよね。ホームレスの方も全員同じ思想ではありませんから。

 1983年、横浜の山下公園でホームレス殺人がありましたが、あの事件があったとき、こどもの里が子どもたちにアンケートをとったところ、釜ヶ崎でもホームレスの方をからかったりしている子がいるとわかったんですよ。釜ヶ崎は日雇い労働者が多い町ですから、仕事がなくなったり、ケガをして働けなくなったりしてホームレスになる方が多いのですが、そういう事情を子どもたちも知っていると思っていたら、何も知らなかったのです。じゃあ、ホームレスの方と話してみようと、夜回りが始まったそうです。

■こどもの里は、本来どこにでもあっていい場所

――里親や子どもたちをテーマにしたテレビのドキュメンタリー番組もいくつかありますが、そうした番組とこの映画では、取り上げる視点がまったく違いますよね。この作品は気持ちが明るくなり、最後には希望まで覚えます。

重江 それは映画とテレビの違いですね。テレビのああいったドキュメンタリーは、「こういう現実がある」と問題提起をしているからではないかと思います。でも、僕はこの映画で問題提起をしているわけではなく、ただ「こどもの里というのがあります、ちょっと見てくださいよ、おもろいでしょう、楽しそうでしょう、最高なんですよ、この子たち」ということを伝えたかった。しんどいこともあるけれど、それは子どもだけの問題じゃない、親の問題でもあるし、社会全体の問題でもある。ラストシーンが希望を感じさせるとしたら、それはあの子たちの普遍的な力がそうさせているのかもしれませんね。

――監督としてこどもの里を撮影したことで、心の変化はありますか?

重江 掘り下げるのは、その人の背景を見ることなので、子どもたちも家族もいろいろなものを抱えているなとは思いました。でも、第三者から見れば「大変だな」と思うことなのに、子どもたちは「え? 何が?」みたいな。ほかの世界を知らないからとも言えるのですが、それが子どもの強さや、しなやかさなのかなと思います。そして、彼らがあかんとき、しんどいときに傍にいてくれるのが、こどもの里なんだとあらためて思います。

――この映画をどういう人に見てほしいですか?

重江 福祉関係の方は見てくださると思うので(笑)、その向こうにいる人たちですね。全国ロードショーのメジャーな映画をいつも見ている方に見ていただけたらうれしいです。あとは思春期の子どもたちですね。大阪で試写をやったとき、中高生の反応が良かったんですよ。貧困やイジメなど居場所のないつらさを抱えた子はいると思いますが、生きていると大変なことって誰にでもあるじゃないですか? 特に思春期はそういう思いを抱えている子は多いと思うので、そういう子たちに、こどもの里のことを知ってほしい。こういう居場所があるよ、ここは特別な場所じゃなく、本来どこにでもあっていい場所なんだってことを知ってほしいですね。

『さとにきたらええやん』
公式サイト
2016年6月東京を皮切りに、大阪ほか全国順次公開(6月中旬~東京・ポレポレ東中野、初夏~大阪・第七藝術劇場)

最終更新:2016/05/31 16:27
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