D・トランプのような痛快キャラが「強い国アメリカ」を求める人にウケた、ドラマ『Empire』
「史上最高のエンターテインメント」と揶揄されている、第45代アメリカ大統領選挙。当初は、かませ犬だとみられていた共和党のドナルド・トランプ候補が、政治評論家の予想に反して幅広い層からの支持を集めており、党代表に選出されるか、世界中の注目を集めている。ドナルドがここまで人気を得ているのは、アメリカ人が感じている不満や本音をストレートに主張するから。「彼ならアメリカの国力を劇的に向上させてくれる」「彼なら有言実行してくれる」と期待が集まっているのである。
かつては「大国」と呼ばれていたアメリカだが、中国などの台頭により、近年は経済的にも軍事的にも一時ほどの強い影響力はない。だからこそ、ドナルドのように、自信にあふれ、強気で本音を語り、「子ども・孫たちのために、アメリカを再び強い国にしたい」と愛国心を持つ人間が好まれる。もちろん、ユーモアに富み、キレのよいジョークを飛ばせる人間性を持っていることも絶対条件だ。
2015年1月、『X-ファイル』や『24』など数多くの世界的ヒットドラマを世に送り出してきた米FOX局で、ドナルド顔負けの強気で痛快なキャラクターが登場するドラマが放送を開始した。音楽業界を舞台に、富と名声、愛憎と裏切りが目まぐるしく交差する、『Empire 成功の代償』である。
物語の主人公は、黒人スラム街で犯罪に手を染めながら、ギャングスタ・ラッパーとしての自分の才能を信じ、ヒップホップ/R&B界で一大帝国を築き上げた、エンパイア社の最高経営責任者(CEO)ルシウス・ライオン。難病に侵され余命宣告を受けたルシウスが、タイプの異なる3人の息子に、「誰が跡取りになるか」を競い合わせるところから物語はスタートする。そこに、ルシウスの成功の代償として17年間刑務所に入っていた、子どもたちの母親で前妻のクッキーが出所し、「エンパイア社はアタシのもの」と権利を主張する。口が悪く、思っていることをズケズケ言うクッキーに、4人の男たちは振り回され、互いにぶつかり合いながらも、薄くなっていた家族の絆を深めるようになっていく。
ルシウスを演じるテレンス・ハワードと、クッキーを演じるタラジ・P・ヘンソンの吠えるようなやりとりが、この番組の人気を支えている。特に、強気で本音を語り、周りの人間を引っ張っていくクッキーは一番人気のキャラクター。音楽やドラマに興味がなくても、強い彼女を見たいからと、チャンネルを合わせる視聴者も少なくない。
テレンスとタラジは、実は過去に映画『ハッスル&フロウ』で共演している。同作は、テレンス演じる“娼婦を取り仕切る底辺ピンプのDジェイ”が、ラッパーになるという夢を思い出し、人生の大逆転を狙うという物語。男尊女卑が根底にあると思いきや、女性なしでは彼は成功をつかめなかったというストーリーで、テレンスが演じたDは『Empire』のルシウスの過去と重なる部分が多い。D役でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるテレンスは、この手のキャラを演じさせたら右に出る者はいないのだ。