セックス特集、安室奈美恵、秋葉原――「Cawaii!」元編集者が語る“ギャルブームの盛衰”
『ギャルと「僕ら」の20年史 女子高生雑誌Cawaii!の誕生と終焉』(亜紀書房)
一方で、ライバル雑誌であった「egg」も、女子高生のリアルな性を切り取っていたように思うが、三者は両雑誌の違いは明確だと言う。長谷川氏は「『egg』のライターや編集者はアダルト誌の経験者が多く、『egg』はギャル文化を業態として見せた“ドキュメント誌”だった。何をやってくるかわからないアナーキーさ。それがトレンド化したから衰退し始めた」と語り、松谷氏は「『egg』は同人誌のようだった。対して、『Cawaii!』はプロが編集した商業誌」とその違いを述べた。
中森氏も、「Cawaii!」の編集力は目に見張るものがあったといい、「第1号の表紙に、タレントを集めるのではなく100人のギャルを千葉県にある海で水着撮影をした。それは紛れもない編集の力が持つすごさ」と、人気タレントやプロのモデルが表紙や巻頭企画に登場するのが当たり前だった当時に、前代未聞の全員が素人モデルの“水着100人スナップ”を表紙に持ってきた革新性を補足した。
また、そんな「Cawaii!」の勢いを後押ししたのが、「Cawaii!」と共存しながらもお姉さん版として2000年に創刊された大人系ギャル雑誌「S Cawaii!」だ。そしてそこに登場した、ギャルブームに欠かせないカリスマ・安室奈美恵や浜崎あゆみの存在。長谷川氏は「『S Cawaii!』では、“女は強くあれ”がテーマだった。それがブリトニー・スピアーズやマドンナ、安室奈美恵、浜崎あゆみ、倖田來未といったディーバとリンクし、彼女たちの言葉を使いながら作っていた。彼女たちも雑誌を発信手段としていた」と振り返る。中森氏も「2000年代は読者とディーバがお互い共依存で作り上げる良い関係性があった」と語り、松谷氏も「雑誌は女の子たちがつながるためのコミュニティだった。今はそれがLINEなどネットになったが、当時雑誌がその中心だった」と雑誌が培っていた役割を主張する。
実際に、「Cawaii!」に登場する女子高生モデルたちは、編集部に遊びに来ることで社会とつながり、自己承認欲を満たしていたことを長谷川氏は述べる。「学校や家庭では言いたいけど言えないこと、皆が聞く耳を持ってくれないことを聞いてくれたのが、彼女たちをリサーチしたい編集者だった」(長谷川氏)。雑誌と女子高生、ディーバと女子高生の、互いのニーズが合致していたのが「Cawaii!」だったのだ。
■ギャルとは、ギャル雑誌とは何だったのかという存在証明
しかし、ギャルブームは終焉を迎える。「2000年代半ばを過ぎてくると、女の子はギャルではなくアイドルや水商売に興味を持つようになった」と中森氏が語ったように、2000年代半ばがターニングポイントだったという。その頃、「Cawaii!」はギャルの聖地・渋谷だけではなく、しばしば秋葉原を特集するようになり、当時現在ほど人気が出る前だった元AKB48の板野友美をモデルに起用。その後、AKBは大ブレイクし、「Cawaii!」の持つ“時代の流れを即座に読み取る力”が証明されたが、ギャルブームの終焉には追い付かず、翌年に休刊となったという。
ギャルブーム時には、ギャルの誰しもがあこがれていた渋谷109のショップ店員も、「今なりたい子はほとんどいない。表に出たいならアイドル、歌手、女優。それが無理なら高級店のキャバ嬢、単体に出られるAV女優、表に出られないのであればステータスのある人の愛人」(長谷川氏)と、女の子たちの自己承認欲求を満たす職業についてこんこんと述べ、中森氏も「経済状況が露骨に反映するのも女子の特徴」と分析。また松谷氏は、女の子の目立ちたい欲望について、「ガングロ的な要素はハロウィーンの仮装に移行した」と語るが、総じて現在は「そもそも皆と同調しようとしすぎて、逸脱する若者が減った」そう。若い世代における意識の大きな変化も、ギャルブームの終わりに加担したことを説明した。
イベントの最後に長谷川氏は、「当時のモデルたちは今子育てをしている。でも遊ぶ楽しさをよく知っている女の子たちだから、常に遊ぼうとしていて、口々に『昔みたいに雑誌を作りたい!』と言っている」とアラサー、アラフォーになった当時のモデルたちのエピソードを紹介した。本書は、現在「Popteen」(角川春樹事務所)で活躍する高校生モデル、“みちょぱ”こと池田美優が、「ギャルはこの先増えないと思う。それでも、やりたいことをやる“ギャルマインド”を持つ子は決してなくならない」と答えている章で幕を閉じる。一過性のブームだったとしても、日本中の女の子を夢中にしていたギャルとは何だったのか、そしてそれを支えていた雑誌とは。本書の意義とは、それらが確かに“存在していた”証しとなることではないだろうか。
(石狩ジュンコ)