風俗嬢専門医・川崎みな子医師インタビュー

他人ごとではない? 風俗嬢専門の女性医師が梅毒やエイズの世界的大流行を予言!

2016/03/28 15:00
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Photo by Herry Lawford from Flickr

 日本国内で梅毒が急増中だという。国立感染症研究所の発表によると、3月6日時点の梅毒患者の報告は581例に上っており、このままでは現行の調査を開始した1999年以降で最多となった昨年の報告数(2,660例)を超えることが確実視されている。かつては「死に至る病」といわれ、遊女たちだけではなく芥川龍之介からモーツァルト、レーニンまで「梅毒感染説」のある歴史的人物は多いが、現在は早期に適切な治療を行えば怖い病気ではない。もちろん放置すれば命取りだ。

 なぜ今、感染が拡大しているのか。風俗街でソープ嬢などを専門に診療している医師の川崎みな子さん(仮名)にお聞きした。

■梅毒を甘く見てはダメ

――3月の国立感染症研究所のデータは新聞各紙でも報じられ、問題になっています。

川崎みな子医師(以下、川崎) もう遅いくらいです。梅毒はこの数年で文字通り倍増していますし、エイズやクラミジア、淋病など他の性病も増えています。私は以前から問題視していましたが、大手メディアはスルーしてきました。


 まず、実際にはもっと多いはずです。梅毒は感染症法による医師の全例報告義務があり、医師は感染が確認されたら厚生労働省に報告します。この数年間、私は毎週ほぼ必ず報告書を出しています。

 ただ、これは検査をした場合の話で、本当に危険なのは感染に気づいていない人たちです。安い風俗店は検査などさせませんし、女の子たちも感染がわかったら仕事ができませんから、怖くてできないのです。感染者が医師にかかっていなければ、統計の取りようもありません。

 このままでは、私はパンデミック(世界的大流行)もあり得ると考えています。かつて中世ヨーロッパで梅毒が蔓延していますが、交通手段が馬や舟だった時代にもかかわらず、わずか2年足らずで全欧で発症例があったとされています。

――なぜ国内で問題にならないのでしょうか?

川崎 おそらく梅毒とエイズの感染者のほとんどが都内の男性ということで、「ゲイの感染症」と甘く見ていたのだと思います。もはやゲイだけの病気ではないのですが、政府としては2020年のオリンピックを控え、大々的に報道して「性病が蔓延している国」と思われるのも困るので、触れてこられなかったのでしょう。


――そもそも梅毒とは、どういう病気なのですか?

川崎 「トレポネーマ」という細菌の感染によるもので、ほとんどがセックスつまり粘膜や体液を通じて感染しますが、妊娠中の母親から胎児にうつる母子感染も目立ってきました。

 最初は自覚症状がないので放置しがちで、その隙に菌は血液に乗って長い時間をかけて体内に入り、全身の臓器や軟骨を侵していきます。俗に「鼻が欠ける」というのは、鼻が軟骨でできているからです。おできやしこりもできますが、すぐに消えるので、さらに放置してしまう人も多いですね。そうすると、脳が侵されて精神がおかしくなることもありますし、心臓や血管系統が侵されることで大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)、大動脈炎も引き起こします。

――なぜ増えているのですか?

川崎 バイアグラなど勃起治療薬などの普及もあって、金銭的に余裕のある中高年の方の性風俗店の利用が増加していることが背景にあります。いわゆる「高級店」は定期的な検査を義務付けていますが、「激安店」や「裏風俗」などはコンドームもつけずに性交をします。女性は「外で遊んできた」パートナーからうつされるケースも増えています。

――予防するには、どうすればいいですか?

川崎 まずは、不特定多数の相手と性交渉を持たないことと、「身に覚え」がある場合は定期的に検査をすることです。梅毒は早期発見と早期治療ができれば治ります。エイズは完治できませんが、早期の段階で発見して対応すれば発症を遅らせることができます。なお、コンドームをつけても、100%は防げません。キスによる感染もあり得ますし、アナルセックスやオーラルセックスなどでコンドームを使うことは少ないですよね。もっと危機感を持っていただきたいと思います。

文庫 性病の世界史 (草思社文庫)