芸能
石川敏男の芸能デスクレポート

スピード離婚、同棲相手の自殺――都はるみ、『男はつらいよ』のマドンナ役に交差した“女の人生”

2016/02/18 19:00
『松竹 寅さんシリーズ 男はつらいよ 旅と女と寅次郎』/松竹

 CS衛星劇場で放送されていた『男はつらいよ 旅と女と寅次郎』(1983)を見た。懐かしい以上に、私にとっては、特別な思いがあった。寅さんこと車寅次郎役は、ご存じ渥美清さん。マドンナは都はるみさん。1983年の初夏に、新潟県の佐渡島でロケが行われた映画だ。『男はつらいよ』のロケには、私も松竹の宣伝担当者として参加していたし、「週刊女性」(主婦と生活社)編集者になっても、編集部に企画を出して数多くのロケ取材に参加してきた。マドンナは毎回変わるが、スタッフが昔の仲間だったということもあって取材がしやすかったのだ。

 『男はつらいよ』シリーズの中でも、この作品は私にとって忘れられないものになっている。ストーリーは、はるみさん演じる売れっ子歌手「京はるみ」が、忙しすぎて恋人と破局。失恋の悲しみに耐えられなくなって公演先から失踪し、世間は大騒ぎになる。そんなとき、新潟の港で偶然に出会った寅さんと意気投合して、佐渡島に小旅行へ。寅さんは、途中で彼女が“演歌界の大スター・京はるみ”であることに気がつくが、知らん振りして楽しい旅を続ける。最終的には、所属事務所の社長らに発見されて、彼女は元の歌手生活に戻っていく。


 当時はるみさんは、周囲の大反対を押し切り、元歌手の朝月廣臣さん(2009年9月没・享年65)と79年に極秘結婚。13年間の同棲生活の末の結婚だった。はるみさんとの交際を続けたために、歌手活動を引退させられていた朝月さんと「ふたりの大阪」をデュエットし、同曲は大ヒット。夫婦で歌う企画を考えたのは、はるみさんだったという。しかし、2人はその翌82年に離婚してしまったのだ。

 そんな状況で、はるみさんは「京はるみ」役を演じることになった。劇中で京はるみは、元サヤに戻ったが、彼女に恋心を抱いていた寅さんは失恋することに。寅さんがマドンナに失恋するのは同シリーズのお決まりだが、同作は31作目だっただけに、寅さんにとっては31回目の失恋となった。

 話を“現実”に戻そう。私は当時この映画を見て、はるみさんはもう一度、離婚した朝月さんとやり直したいと思っているはずだと、勝手に感じていた。2人の同棲生活をずっと知っていたのも、グアム島での挙式をスクープしたのも、そして朝月さんから離婚の相談をされたのも私だった。仲のいい2人の様子を長年見続けてきた私にとって、離婚は相当ショックな出来事だった。徐々に生まれた2人の不協和音。ボタンのかけ違いで起こってしまった離婚。この映画を見たとき、「また元に戻ればいいのに」と感じていたあの頃のことを、ありありと思い出した。

 あれから33年、昨年12月のコンサートを最後に、今年はコンサートを開かないと決めているというはるみさん。業界関係者の間では、「リフレッシュ休暇」という声がある一方、「引退」の二文字もささやかれている。離婚だけでなく、同棲相手の自殺など、波瀾万丈の人生を送ってきたはるみさん。全国には「♪三日おくれの 便りをのせて~ 船が行く行く~」と歌う彼女の歌を聞きたいと思っているファンは、大勢いるのにな。

最終更新:2016/02/18 19:00
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