カルチャー
劇団「態変」主宰・金滿里さんインタビュー

「健常者が考えつかない世界がある」身体障害者の劇団主宰が語る、障害者にしかできない表現

2016/02/10 16:00

■「障害者が頑張っています!」という表現をしたいのではない

――設立当時、身体障害者による劇団はおそらく世界初だったそうですが、態変の舞台を見た観客からはどんな反響が寄せられていましたか?

 最初の頃は、「危ない! こんなもの見てられない!」と怒って帰った白人のお客さんもいましたね。脳性麻痺で身体が震えている演者が一升瓶を持って「俺の酒が飲めんのか!」と客に飲ませ、また自らも酒を飲むような「挑発芝居」と言われるものをやっていたんです。酔っ払いと同じように震えているけど、脳性麻痺で震えている、酒でも飲まんとやってられへんという逆説的表現ですね。

 でも、怒って帰られるのなんて、私たちにとっては上等ですよ。「障害者が頑張っています!」といった表現をしたいのではなく、いかに健常者が考えつかない障害者の世界があるかを表現したいんです。障害者の多くは、健常者になりたいと幻想を抱いています。でも、自分の足元に根を下ろすと、全然違う見方や考え方がありますよね。それを芸術として出しています。

――態変の作品にはセリフは一切なく、身体の動きで表現されていますが、劇団としてはどのような表現を心がけているのでしょうか?

 うまくなろうとしないこと、健常者のマネをしないことです。良い格好というのはマネから生まれるでしょ? でも、障害者の場合、健常者を見ているうちに自分も健常者だと錯覚してしまうんです。「障害者らしくせぇ」とは言わないのですが、何かやるときの形が健常者の模倣だったらすごくみっともないと、昔から思っていました。

 障害の程度でも、寝たきりと座ったまま、立ち姿勢のとれる、3つの姿勢があるんですね。この中で、寝たきりが一番“表現的”なんですよ。立っているものは制約を加えないと、寝たきりの演技の良さを壊してしまうので、誰がどこを通ってどっちへ行くなどの交通整理をやる必要があります。態変の演技は、“風景”として見ると楽しめると思います。何を言おうとしているのかを考えて見ると、頭がカチカチに固まってしまうので。

■パラリンピックが利用されている

――先日、障害のある若い女性の「欠損女子」たちがバーテンダーをするイベントが話題となりました。「欠損」という点にフェティシズムを感じる人がいることや、欠損女子を性的な目で見ている人もいるということを含め、賛否両論を呼びましたが、金さんはどう思われますか?

 私、1996年から3年間ほど、エジンバラで公演があってイギリスに通っていたんですよ。イギリスでは、身体障害者や、そういう嗜好の人が出会うためのクラブがありました。そういう嗜好の人のための出会いの場が、日本でも出てくるんだろうなとは思っていましたが……。人間の嗜好はいろいろあるので、とやかく言えませんが、本当に出会うというのは容姿ではなく魂同士のふれあい、つまりコミュニケーションなのではないかと思います。容姿ではなく、見えないものを見たいと思っているほうなので、私はあまり関わりたくはないですね。

 欠損女子のイベントに参加しているのは、障害者のほんの一部でしょうね。ほんの一部の人が良いと思っているのと、みんなが良い、と思うのとでは違うでしょ? 例えば、健常者でもホステス業をやりたいと思ってやっている人がどれだけいるか、と同じです。苦労して稼がなダメで、お金のためにやっている人もいるでしょうし、単に労働時間が短いし、オシャレもできるしいいやんと思ってやってるだけの人もいるだろうし、それと同じです。

 障害をウリにできたらラッキーと思っている人もいるだろうけど、消費なので、そのうちに喪失感を感じ、本当の愛を求めたくなるのではないかなと。もともと愛されたいのでしょう。そんなところで障害を消費しなくても、愛されると思います。

――20年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。先日、乙武洋匡さんの「義足が進化して、このままでは健常者に勝ってしまうので、パラリンピックをなくしたい」という発言が話題になりましたが、金さんはパラリンピックに関してどう考えていますか?

 私は東京オリンピックもパラリンピックも反対です。一番大事な福島の原発の問題が解決していない、今の日本の状況では、やるべきでないと思っています。問題から逃げないという底力を見せてほしいのに、「違う方向やんそれ、それで満足なんか? と思います。パラリンピックが、めっちゃ利用されているんですね。「パラリンピックがあるから、あんたら黙っとけ」という圧力に使われている。障害者が認められるという幻想を持ってしまう。乙武君のように、「義足を使えば健常者に勝つやん」という、勝ち負けの問題ではないんですね。

――次回公演『ルンタ(風の馬)〜いい風よ吹け』は、どのような内容なのでしょうか?

 チベット仏教、チベット密教とも言うんですけど、非常に洗練されたディープな仏教の世界がテーマです。宗教でなくてもいいんですよね。人間が別の価値観で生活や人間のつながり方を変えていく必要が日本の社会にはあるんちゃうかな、具体的にそれを考えていくきっかけになればいい、物質文明ではないものといった感じですね。
(姫野ケイ)

劇団態変
主宰・金滿里により1983年に大阪を拠点に創設され、身体障害者にしか演じられない身体表現を追究するパフォーマンスグループ。「身体障害者の障害じたいを表現力に転じ未踏の美を創り出すことができる」という金の着想に基づき、一貫し作・演出・芸術監督を金が担い、自身もパフォーマーとして出演する。海外公演も多数行っている。


撮影・中山和弘

次回公演:『ルンタ(風の馬)~いい風よ吹け~』
『チベット死者の書』からインスピレーションを受け、現代の生死観を問い直す作品。音楽は全編ライブ演奏で、ウゲン・ナムゲン氏(チベット仏画師)の絵画が作品世界に奥行きを与えていく。
日時:2016年 3月11日(金)19:00、12日(土)13:00/19:00、13日(日)13:00
会場:座・高円寺1 東京都杉並区高円寺北2-1-2
劇団態変

最終更新:2016/02/23 14:11
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