カルチャー
『日本とフィリピンを生きる子どもたち―ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレン』著者・野口和恵さんインタビュー

父親に会えない、貧困、国籍… ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレンが抱える問題

2016/01/09 15:00

■フィリピン人の母親が一人で家計を支えているケースが目立つ

――フィリピンで生まれ、日本の国籍を失ってしまったJFCが少なくないそうですね。

野口 JFCが日本国籍を喪失した原因のひとつに、国籍法12条があります。これは、婚姻関係にある両親から生まれた子どもに適用される法律なのですが「外国で生まれて外国籍を取得した日本国民は、出生後3カ月以内に日本の国籍を留保する意思を表示しなければ日本国籍を失う」と規定されています。子どもの気持ちを考慮にいれず、無条件に日本国籍を奪っている法律であることから、JFCたちは、国籍法12条は違憲として日本政府を相手に訴訟を起こしたのですが、残念ながら昨年3月、原告敗訴が確定してしまいました。

 あとは重国籍の問題ですね。日本は原則として重国籍を認めていませんが、国際化の進んだ現在、日本で生まれてくる子どものうち30人に1人は両親、あるいはどちらかが外国人という時代に入っています。この法律も、もう時代に合わないので改正されるべきだと思います。海外ではフィリピンも含め、重国籍を認めている国のほうが多いし、そもそも父親の国か母親の国か、どちらかを選べというのはかなり酷だと思います。

――日本に暮らすJFCの家庭は、どのような問題を抱えているのでしょう。

野口 日本で暮らすJFCの場合も、父親との関係が切れ、フィリピン人の母親が1人で家計を支えているケースが目立ちます。その場合も生活は楽ではありません。それでもフィリピン人の母親が日本にとどまる、あるいは、子どもと一緒にフィリピンから移ってくる理由のひとつは、子どもに日本で教育を受けさせ、いい仕事についてほしいからです。けれども、理想と現実のギャップにつきあたることが多々あります。

 日本で暮らすJFCの場合は、日本語を上手に話していますが、教科書などで使われる学習言語が完成していないために、成績が伸び悩んでいる子が多くいます。子どもの成績について心配するフィリピン人のお母さんが多いのですが、自分では勉強を教えられず、塾にも通わせる余裕がないために、もどかしい思いをしています。

 また入学式、卒業式の服装や、お弁当の中身はどうしたらいいか、と母親たちから聞かれることもあります。日本人にとっては当たり前のことが、外国人にとっては当たり前でないことの“困り感”は強いですね。お母さんも困っていますが、当の子どもたちも相当にキツイだろうと思います。

■バブル期の日本で働いた母親には、景気がよかったイメージが残っている

――JFCが貧困ビジネスに利用される事例もあるようですね。

野口 フィリピンの主要都市にはJFCを「低コストの労働力」として日本に送り込むエージェントが多数存在します。こうしたエージェントはかつて、フィリピン女性をエンターテイナー(ホステス)として日本に送っていましたが、現在は興行ビザの発給が制限されているため、ターゲットを就労制限のないJFCに移したのです。パスポートを取り上げられて、劣悪な環境で働かされているJFCも少なくありません。

――なぜそのような事態になったのですか。

野口 2008年に国籍法3条が改正されたことがあります。先ほどお話しした国籍法12条は、両親が婚姻関係にある子どもに適用される法律ですが、両親が結婚していない、婚外子の国籍については国籍法3条に定められているんです。以前の国籍法3条では、胎児のうちに父親から認知された子どものみが日本国籍を取得できることになっていましたが、2009年の改正国籍法施行によって、日本人の父親から生後認知を受けた子どもも、20歳までに申請すれば日本国籍を取得できるようになりました。

 日本人としての誇りを持てるようになったJFCが増えたことは、大変喜ばしいことでしたが、皮肉なことに、こうして日本国籍を取得できるJFCが増えたことが、エージェントの商機になったのです。子どもが未成年であれば、母親も定住者としての在留資格が得られるため、JFCだけでなく母親もターゲットになっています。

 フィリピンは仕事が少ないため、母親自身も日本で働くことを望んでいるという事情もあります。JFCの母親たちの多くは、バブル期の日本でエンターテイナーとして働いた経験があり、景気がよかった頃の日本のイメージが残っているのです。そうした心理を巧みにつかれてしまうのか、悪質なエージェントの口車に乗せられ、渡航費や手数料の名目で法外な借金を背負わされる母子が後を絶ちません。

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